第百九十七話 球場内がざわめいた件


「余り俺を見くびるなよ、凌牙」


 麻布は目力を込めて東雲を睨みつけ、足元を鳴らしていた。そして更に内側に足を構えた。インコース寄り、白線ギリギリの位置だ。


「来いやコラァ!!!」


 麻布が一括し、バットを構えた。


 不破のサインは決まっていた。東雲は当然だろと言わんばかりに、軽く頷いてから投球動作に移った。


 ――ギュィィィィィィ!!!


 東雲の右腕から力強いストレートが放たれた。勿論コースはインコースだ。


「……ぐっ!!」


 麻布は腕を畳んでスイングしたが、そのバットは空を切っていた。


「ストライク、ツー!!!」


「……タイムお願いします」


 麻布は咄嗟にタイムを取り、間を嫌った。スパイクの紐を直し、バットを軽く二回振ってから打席に戻った。


 麻布がバットを構えた瞬間、東雲は投球モーションに入った。とうの昔に投げる球は決まっていたからである。


「……っらぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 ――ギュィィィィィィィィィィ!!!!


 ――ズバァァァァァン……!!!!



「ストライク、バッターアウト!!!」


「っらぁぁぁぁ!!!!」

 

 麻布をインコースのストレートで三球三振に奪い、東雲はマウンド上で吠えた。



 ……ざわ……ざわ……



 今の東雲が投じた一球で、球場内はざわめいていた。

 何故なら今の一球、球速表示が百五十三キロを計測していた。前回、皇帝との練習試合で神崎に投じた一球より、更に一キロ速くなっていた。


「見たかよ……今の一球……」


「めちゃくちゃ速かったぞ今の」


 当然、蛭逗ベンチも同様の反応であった。


 三振した麻布は自軍ベンチに駆け足で戻っている途中、ネクストバッターボックスに入った赤坂に呼び止められた。


「どうだよ、アイツの球」


「……」


 麻布はとても機嫌の悪い様子で黙り込んでいた。


「まぁあのイキリ野郎は俺が対処してやるから。で、球筋教えろよ」


「……全部インコース一杯に投げて来やがった。球も速いし、何より手元で更に伸びる。ぶっちゃけ中学時代の凌牙とは別人だ」


「ふぅん」


「ストレートしか見せられていないが、これに昔と同様にチェンジアップをまぜられたらやっかいだ」


 話を聞いた後、赤坂はニヤリと笑った。


「まぁ俺がハッキリさせてやるよ。どっちが上かって事がな!!」


 二番バッターが内野ゴロに倒れ、蛭逗子の三番、赤坂に打席が回った。


一回裏 途中 ツーアウトランナーなし


 明来 一対ゼロ 蛭逗

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