第百九十五話 ムカつく野球センスな件

「っしゃあああああ!!!」


 赤坂はマウンド上でガッツポーズをしていた。それは最後のバッターを抑えたのかと言うくらいの喜び様だった。


「情けねぇなー凌牙ぁ! 三球三振じゃねぇか」


 東雲は背後から聞こえるその言葉に反発することなく、無言でベンチに戻っていった。


 ただベンチに戻った瞬間、彼は怒りに満ちた顔に変わった。


「クソがッ!!!」


 脱いだヘルメットを地面に叩きつけようとしたが、即座に守が彼の右腕を押さえて静止させた。


「二球目のボール何? 前みた試合では投げてなかったみたいだけど」


「知らねぇっ!!」


「知らねぇって……たった今見たでしょ」


 守は呆れながら話を聞いていた。


「だから知らねーんだよ。あんな緩い球アイツが使っているところ見たことねーよ」


「そ、そうなんだ」


「恐らくスローカーブだ。あの野郎、俺まで温存してやがったな」


 東雲は赤坂の方を向き、舌打ちをした。



 ――キィィィィィン!!!



 そんな中、氷室のバットから快音が鳴り響いた。


 しかし打球はレフト正面のライナーで、惜しくもアウトとなった。


「さ、ピッチング頑張れよな!」


 守は東雲の背中を叩いた。


「言われるまでもねぇ」


 東雲はすぐさまピッチングの準備に取り掛かった。


 

 ――その一方、攻守交代でベンチに戻りながら麻布と赤坂は会話をしていた。


「見たかよ、あの凌牙の情けない姿。マジで草だわ」


 赤坂は東雲から三振を取ったことが余程嬉しかったのか、ニヤニヤを抑えきれずにいた。


「そりゃお前、俺は特等席にいたんだぜ。目の前で楽しませて貰ったわ」


「だろ? あんな粋がってたくせにダセーよな」


「そうだな。笑えるわ」


 赤坂の言葉に麻布は合わせていた。


「ただ、最後のボールに反応して来たのは予想外。あの攻め方されたら普通は見逃し三振だぜ」


 麻布がポツリと呟いた。


「あ? 何か言ったか?」


「いや、何でもない」


 麻布はすぐ様、再び赤坂の話に合わせていった。


『赤坂のいる手前、口にはできねぇが……やっぱりムカつくぜ凌牙。お前のその野球センスがよ』


 麻布は頭の中で、赤坂とはまた違った感情を東雲に抱いていた。



 一回の表 終了


 明来 一対ゼロ 蛭逗

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