第百九十四話 野球でケリをつける件

 ――バチバチッ!!


 そんな音が聞こえてくるくらい、彼らは睨み合っていた。

 右打席に立つ東雲と、マウンドに立つ赤坂。互いに今から乱闘を始めるのかという迫力でガンを飛ばしまくっていた。


「早速のフラグ回収だなぁ、赤坂」


「あん?」


 東雲が切り出した。


「お前駄覇に試合前言ってたじゃねーか。シニアの時の借りは返すとかよ」


「それはバッティングの話だっつーの凌牙。当時はお前が無謀にも一人で投げてただろ」


「じゃあ今の悔しがり方は何だよ。認めろよ、あれだけ調子乗ってたのに最も簡単に駄覇に打たれて悔しいですってな」


 東雲は赤坂を指差して笑った。


「殺す」


「君たちいい加減に――」


 主審が痺れを切らして注意しかけた瞬間、麻布が即座にマスクをはずし、頭を下げた。


「申し訳ありません。すぐ辞めさせます」


「な……ならいいが」


 その余りの反応の早さに、主審はそれ以上の注意を止めた。


「お前らいい加減にしろ。野球でケリつければいいだろ」


 麻布はそう言うとすぐにマスクを被り直した。


「ケッ。ゴマスリ野郎が」


 東雲はバットを構えた。赤坂もロジンパックで指先を整えていた。


「プレイ!!」


 主審からプレイ再開を宣言された。


「っラァ!!!」


 赤坂の左腕からボールが放たれた。


「ふっ!!」


 ――キィィィィィン……!!!


 インコースのストレートを捉えた東雲の打球は、レフト方向へグングン伸びていき、レフとポールの少し左に着弾した。後少しでホームランという非常に惜しい一打であった。


「チッ。球が遅せぇから引っ張りすぎたわ」


「ただ……俺には通用しねぇよ。お前ら唯一の武器、クロスファイヤーなんてな」


 東雲は再びバットを構えた。


 麻布は東雲の言葉を完全スルーし、サインを送った。


 赤坂は頷き、そしてまた左腕を強く振り抜いた。


「――ッッ!?」


 赤坂が投じたボールはドロンと大きな軌道で沈んでいった。


「スイング!!」


 東雲は振りに行ったバットを止めることができず、ストライクを言い渡された。


「……タイム」

 

 東雲は打席を外し、軽く素振りをして再び打席に戻った。


 次に投げさせる球は決まっていたのか。麻布派すぐにサインを送り、赤坂はそれに頷いた。



「っラァ!!!」



「ふっ!!!」



 ――ブンッ!!!



 東雲の鋭いスイングはインコースのボールに触れることはできず、空を切ることとなった。



「ストライク、バッターアウッ!!!!」


 

 一回表途中 ツーアウト二塁


 明来 一対ゼロ 蛭逗

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