第百九十三話 想定外の成長な件

 ――シュゴオォォォォ!!!


 赤坂のストレートは駄覇の胸元目掛けて投げ込まれていた。


「ふぅっ!!」


 駄覇は息を吐きながら腰をぐるっと回転させた。


 ――キィィィン!!!


 駄覇が放った一塁線上のライナー性の打球は、ファーストが目一杯腕を伸ばしたミットをかわした。


「フェア!!!」


 打球はフェアゾーン内で着弾し、そのままフェンスまで転がっていった。


「ライト急げ!!」


 麻布がマスクを外し、指示を送る。


 一塁ランナーの山神は快足飛ばして二塁ベースを蹴り、三塁まで走ってきていた。


 麻布は山神の走り方を見て、即座に指示を送る。


「バックホーム!! 遅えな早くしろ!!」


 ライトからのボールを受けたセカンドは外野の芝付近までライトを追っていた。


「GO! 山神殿!」


 サードコーチャー松本が腕を回しているのを見て、躊躇なく山神はサードベースを蹴った。


「寄越せ!!!」


 麻布がホームベース付近でミットを構える。


 ――スパァァン


 麻布がボールを受け、タッチプレーに入る。


 ただ山神の身体はミットをくぐり抜け、左手がホームベースに触れた。

 山神の素晴らしく上手いスライディングによるタッチ回避だった。


「セッ……セーフ!!!」


 麻布は即座に駄覇へ視点を切り替えた。二塁を蹴って少し大回りでベースを回っていた駄覇は二塁へ戻った。



「ナイスバッティング!!」


 明来ベンチから、タイムリーヒットを放った駄覇に称賛の声が送られた。


 駄覇は特に反応することなく、走塁用の手袋を装着していた。


「クソがっ!!」


 マウンド上の赤坂が地面を蹴り上げていた。麻布はタイムを取り、彼の元へ向かった。


「クソが!! 舐めやがってクソガキがっ!!」


「落ち着け赤坂。ボールは完璧だ」


「あぁ!? じゃあ俺のボールはアイツに通用しねーって言いてぇのかテメェ!!」


 赤坂は麻布に対して鋭い視線を送った。


「ちげーよ。今のは俺の配球ミスだ。アイツが一年間であそこまでインコース打ち得意になっているのは想定外だったんだ」


「……」


 赤坂はジッと麻布の目を見続けていた。


「確かに去年のデータまではアイツが比較的苦戦していたのは左投手、インコースのストレートだったんだ。これは間違いない。」


 麻布が話続ける。


「ただ、今のスイングを見る限りなんの策もなしにインコース放るのはむしろ危険な選択肢になっている。配球を改めるわ」


 麻布は赤坂の胸を軽く小突き、ホームベースまで戻っていった。


「ようヘタクソ。バカの機嫌取りは終わったのかよ」 


 東雲が麻布を煽る。早くも右打席に立ち、麻布の戻りを今か今かと待っていたようだ。


「黙れ凌牙。お前みたいなせっかちはモテねーぞ」


「多少モテるヘタクソより、実力でモテる方がいいわ」


「やってみやがれ」


 麻布は舌打ちをしながらマスクを被った。


「四番、ピッチャー、東雲君」


 これから同胞シニア、チームメイト同士の戦いが始まろうとしていた。



 一回表 途中 ワンナウトランナー二塁


 明来 一対ゼロ 蛭逗

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