第百九十話 最低な才能な件

「まぁいいや。試合でもその余裕そうな表情が続けられるといいなァ?」


「白川、親には今日、友達の家に泊まるってラインでも入れておけよ?」


 赤坂は再度駄覇を一瞥し、麻布と共に笑いながら明来ベンチを後にした。彼らの座っていたベンチには、コンビニで買ったホットスナックの紙ゴミが放置されていた。


「〜〜ッ!! 何なんだよアイツら!!」


 守は怒りで顔を真っ赤にしていた。


「勝手に相手チームのベンチに上がり込む、瑞穂にちょっかいかける、ケンカを売る!! 何がしたいんだよ!!」


「落ち着けよ千河。あの馬鹿どもの思う壷だぜ?」


 珍しく東雲が冷静になって守を落ち着かせていた。


「はぁ? 意味がわからないんだけど」


「これはあの麻布っていうピアス野郎の作戦なんだよ。アイツ性格ひん曲がってるから、試合前から相手選手に冷静さを失わせるんだよ」


 東雲が自らを棚に上げ、麻布という男について説明していた。


「アイツ唯一の取り柄みてーなもんだよ。人をムカつかせることに関しては天才だからな」


「そ、そうなんだ。わかったよ、ありがとう」


 守は何とか冷静さを取り戻した様だ。


「瑞穂も嫌な思いしちゃったね」


 守は瑞穂を気遣った。


「あはは、別にあんなの慣れっこだし」


 当の本人は全く気に留めていない様子だ。流石モテ体質は違うなと守は感じていた。


 


 ――そして両校シートノックが終わり、試合開始の時間となった。


「集合」


「いくぞ!!!!」

「おおお!!!!」


 主審の声を聞き、明来野球部はキャプテン氷室の声に共鳴し、そして整列位置まで駆け足で向かった。


 対して蛭逗高校の選手はてんでバラバラだった。ユニフォームを着崩した選手も多く、各々チンタラ歩いていた。足並みは一切揃っていない。

 その姿を見た主審は、無言ではあるものの、表情には怒りが込み上げているのが誰の目にも明らかだった。


 ようやく整列位置に蛭逗の面々が揃い、主審の声と共に明来野球部は一礼をした。蛭逗の部員は誰一人として頭を下げていなかった。それどころか明来の選手を見て、何やらニヤニヤと笑っている者さえいる。


「アイツら、本当に何がしたいんだよ」


 ベンチに戻った守は、またしても彼らの態度に苛立っていた。


「今日の守はいつも以上にイライラしていますね」


 瑞穂は守に聞こえないように上杉監督に話しかけた。


「えぇ。そういう意味でも今日は投げさせられません。この試合は東雲君にかかっています。」


「そうですね。東雲君は確かに調子が良さそうです」


 瑞穂の言う通り、東雲はブルペン投球の時からやけに調子が良さそうだった。


「まだ試合は始まっていませんが、こういう気持ちの強さは本当に頼りになります」


「あとはやはり……」


 瑞穂はある選手の方をちらっと見た。


「えぇ……駄覇君がこの試合、もう1人のキーマンです」


「彼らが活躍できるかどうかで、この試合は決まります」


 上杉監督は腕を組み直し、グラウンドを静かに眺めていた。

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