第百八十六話 二年目の夏予選が開幕した件
――夏の予選大会が開幕した。
明来高校は一回戦を五回コールドで勝利を収め、二回戦に進出していた。
明来は八点のリードをあげている中での七回裏の守備。この回無失点ならコールド勝ちとなる。
マウンド上にはエースナンバーを背負った守が立っていた。一回戦に続き、二試合連続で無失点ピッチングを続けている。
キィィン!!
「ファースト!!」
右打者の詰まった打球はファースト青山の方へ転がっていた。守はすぐさまベースカバーに走っていた。
「千河っち!」
青山からのトスを守は捕球し、バッターランナーへ接触しないように一塁ベースを踏んだ。隙のない、お手本の様なカバーディングである。
「オッケー、ワンナウト!!」
守の声にバックが後押しする。
――キィィィン!!
「ッ! セカンッ!!」
左打者の鋭い打球が守の左足の横を抜けていく。
「うォラッ!!」
東雲は逆シングルで捕球し、ジャンプしながら一塁へ転送した。間一髪のタイミングでアウトを奪った。
「――ッ!! ナイス東雲!!」
守はガッツポーズを東雲に向けた。
「一々喜んでんじゃねーよ。ラストも俺のとこに打たせろ」
東雲は言葉と裏腹に、口元が完全に緩み切っていた。大満足のプレーだったのだろう。
――キィィン!!
「ライト!!」
右打者の流し打ちがライト方向へ向かっていた。
今日ヒット二本の風見がラストボールを丁寧に掴んだ。
「よっしッ!!!」
ゲームセットとなり、守はガッツポーズを上げた。
「八対ゼロで明来! 礼!」
大歓声に包まれながら、両チーム一礼をした。そして相手チームの選手と握手をし、明来のメンバーは彼らの夢を託された。
「順調ですね、監督」
瑞穂が上杉監督に話しかけた。
「ええ、予定通り。いや、想定以上の結果です」
「守が二試合連続で完投、これでプラン通りですね。二試合完封は出来過ぎですが」
瑞穂は守の方を見てニコニコと話していた。
「ええ。本当に千河君は期待以上の活躍をしてくれました。これで次の蛭逗戦、ベストな状態で戦えます」
上杉監督も関心した様子で頷いていた。
「それに加えて駄覇君を二試合とも出場させずに済んだことも大きいですね」
「ええ。彼は中学時代の映像があまりにも出回り過ぎています。極力今の彼を伏せておきたかったので助かります」
「ただ……蛭逗戦は流石に……」
「ええ。蛭逗戦で駄覇君を温存する余裕なんてありませんよ。彼はスタメンで使います」
瑞穂と上杉監督は同じスタメンビジョンが見えている様だ。
「次の蛭逗戦……キーは間違いなく駄覇君と彼でしょうね」
上杉監督の言葉を聞き、瑞穂は答えを口に出した。
「東雲君……守のナイスピッチングを二試合も目の前で見せつけられていますからね」
「ええ。彼は必ずやってくれますよ。今日までは理想的な展開です」
歓喜の輪に包まれているメンバーの知らないところで、蛭逗戦の先発ピッチャーが決定したのであった。
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