第百八十五話 夏予選の組み合わせが決まった件

 ――夏の予選、抽選会当日。


 キャプテンの氷室とマネージャーの瑞穂は抽選会場へ向かい、他のメンバーはグラウンドで汗を流していた。


 練習も一通りのセットをこなし、休憩をとっている中二人が抽選会場から戻ってきた。


「みんな、対戦カードが決まったぞ!!」


 氷室は対戦表を手に取り、指を刺した位置を全員が注視した。


「皇帝とは別の山……当たるとすれば決勝戦だな」


 兵藤は別ブロックを見ているようだ。


 他のメンバーもそれぞれ同じブロック、次の対戦校などを確かめていた。


「東雲……この三回戦で当たりそうなチームって……」


 守は東雲に話しかけた。


「チッ……蛭逗かよ。不祥事明け初の大会ってことか気持ち悪りぃ」


 東雲は汚物を見るような顔をしていた。


「油断は当然禁物……だけど対戦カードを見る限り、僕たちの三回戦の相手はほぼ確実に彼らだろうね」


「千河……お前ヒヨッてるのか?」


「東雲だって、そんな嫌な顔をしているから怖いんじゃない?」


「ハァ!? 俺が格下相手に? 笑わせんなよマジで」


 守と東雲は相変わらず言い争いをしていた。

 ただ背番号発表以降、以前より少しだけ話し方がソフトになっていることを周りのメンバーは気が付いていた。

 少しずつ、お互いへのリスペクトが上がっている可能性があると全員感じていた。



「さぁ、一回戦まで時間はないよ! みんなそれぞれの課題を潰していってね!」


 瑞穂の声かけに全員が反応して、練習に戻っていった。


 全員がグラウンドへ戻っていったことを確認してから、瑞穂は上杉監督に話しかけた。


「監督、蛭逗高校との試合ですが、先発ピッチャーは決まっていますか?」


「勿論。対戦カードを見て一瞬で閃きましたよ」


 上杉監督はにこりと笑いながら答えた。


「そういう話をすると言うことは……白川さんも考えがあるのでは?」


「えぇ。私の考えでは……」


 瑞穂はより声を潜め、上杉監督だけに聞こえるように回答した。


「ふふ。流石は白川さん。私と全く同じ考えです。よく見えていますね」


「ありがとうございます。今の戦力で蛭逗に勝つ為にはこれがベストだと思います」


 瑞穂は自信ありげに答えた。


「ええ、その通りです。その為にも一、二回戦はとても重要ですね」


 上杉監督は改めて対戦表に目を通した。


「……頼みましたよ」


 上杉監督はとある選手の方を向き、ポツリと呟いた。

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