第百八十一話 明来の鍵な件

 守たちが騒動に巻き込まれている頃、駄覇は轟大学のグラウンドで練習を行っていた。



 ――シュゴォォォォォォッ!!!



 ――パァァァァァン!!!



「ナイスボール!」


 駄覇のストレートを見事な捕球音で答えたキャッチャーは笑顔で駄覇に返球した。


「義経、前に来ていた時より球威が上がったな!」


 先輩からの言葉を聞きながら、駄覇は返球を受けた。グラブを巧みに操り、返球を掬い上げる様に浮かせてから左手でボールを握った。


「先輩、ただ単に俺が投げてないなら肩が軽いだけっす」


 

 ――シュゴォォォォォォ!!!



 ――ズパァァァ……!!!


 駄覇のストレートは構えられたミットドンピシャに収まった。


「痺れるボールだなぁ。高一でこんなボール投げるのに、試合でまだ多くは投げねぇのかよ」


「……一応、二年のピッチャーが二人もいるんで」


 駄覇は少しつまらなそうに答えた。


「あぁ。この前投げていた奴らだな。左のメチャクチャコントロールがいい奴と、右の本格派」


「部員が少ないのもあって、俺はたらい回しっすよ。この前はキャッチャーもやったっすね」


「それだけチームから信頼されているってことですよ、義経」


 突然、駄覇の背後から声が聞こえ、彼は一瞬ドキッとした表情を見せた。若井監督だった。


「君は高校一年生にして、ほぼ全てのポジションを高校野球基準でも高水準レベルで守れます。恐らく、上杉監督は相当貴方の実力を評価していますよ」


「そうすかね、わからないっすけど」


「明来はいかんせん人数が少な過ぎます。初心者上がりの選手たちに複数のポジションを練習させる余裕もないでしょう。貴方が明来の鍵ですよ」


 

 ――シュゴォォォォォォ!!!



 ――パァァァァァン!!!



 駄覇のストレートは益々うねりをあげていた。



「夏大、頑張ってくださいね。何人かで応援に行きますよ」

 

「……じゃあ大会で投げる機会があったら、コイツを解禁しますわ」


 駄覇は先輩と若井監督に握りを見せた。そしてセットポジションから左腕を強く振った。


 

 ――パァァァァァン!!!



「……ナイスボール! 文句なしの切れ味だったぞ義経」


 キャッチャーの先輩は捕球したミットの位置を暫く固定していた。



「ついに完成しましたね、義経」



 若井監督も満足げな表情をしていた。



「コイツが高校生相手にどこまで通用するか、楽しみでならねぇ」



 駄覇は上唇をぺろりと舐めてボールを受け取った。

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