第百八十話 全員が直感した件
東雲は蛭逗高校の話を続けた。
「自分の名前が漢字でかけりゃあ誰でも入学できるって言われてるくらいバカの集まった高校だよ。アイツら二人はそこの野球特待組だ」
東雲は彼らを心底バカにした口調で答えた。
「む……確か蛭逗って去年公式戦出てなかったような」
氷室が何か引っかかるような顔をして話した。
「……部員の不祥事で出場停止になっていたみたいだね」
瑞穂はスマホで検索した結果を伝えた。
「とびきりのバカしか集まってねぇからな。飲酒喫煙、窃盗は当たり前。女関係のトラブルだって絶えねぇんだよあそこは」
東雲は呆れながら答えた。
「妙に詳しいんだな、東雲」
「俺にも特待の誘いが来たからな。ただ俺は動物園に入園するほどバカじゃないって話だよ」
東雲はドヤ顔で答えた。
「でも特待生ってことはあいつら野球が上手いんだな。蛭逗は元々、野球部がつよい学校だし」
守が東雲に声を投げかけた。
「所詮俺の格下だけどな」
東雲は吐き捨てるように言った。
「そうなの? 特に赤髪のやつなんて体型がガッチリしていたけど」
守は東雲の方を見て話している。
「どんな選手なの? あの二人は」
瑞穂も気になったのか、東雲に質問した。
「……チッ。あの赤髪は赤坂って奴で、当時は二番手ピッチャーだ。俺より球は遅いが左のサイドスローで右へのクロス、左へのスライダーが武器。バッターとしては俺の後ろで四番」
東雲は話し続けた。
「んでピアスヤローは麻布。キャッチャー。身体能力は大した事ないが、とにかくウザいぐらい観察眼がいい。バッターとしても出塁率、盗塁成功率の高さから一番を張ってやがった」
「じゃああの二人が、蛭逗のバッテリーなのかな」
守は考えながら東雲に問いかけていた。
「どうだろうな、三年生がいるからレギュラーかはわからねぇが、ベンチには間違いなく入るだろうな、流石に」
「ふーん、なんだやっぱりアイツらのことを認めてるんじゃん」
守は話しながら笑った。
「あぁん!? シニアの他の奴らが余りに不甲斐ねーだけだっつの。アイツらはまだ多少野球ができるっつーだけの話だよ」
「あっ!!!」
突然風見が大きな声をあげた。
「んだよウルセーな! 病院だぞここは」
東雲が珍しくまともな指摘をした。
「ご……ごめん。ただ、これを見てくれる? 気になって蛭逗高校のことを調べてたんだけど」
風見はスマホ画面を他のみんなの方へ向けた。
「んだよTwitterか?」
東雲と他のメンバーも画面に注視する。
「南場実業野球部の公式Twitterだね……えっ!!」
瑞穂を筆頭に、全員画面を見て驚いていた。
「蛭逗高校との練習試合、十二対ゼロの完敗……!? 新チームとはいえ、あの南場実業を……!?」
「四番でエースの赤坂選手は完封に加え本塁打二本。そして一番麻布選手には全六出塁を決められ、南場ナインは手も足も出なかった……だって!!」
守は唇を噛み締めた。
「……粋がりやがって」
東雲もバツの悪い顔をしていた。
そして、その場にいる全員が直感していた。
夏の予選で、蛭逗高校と対決するという未来を。
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