第百六十八話 認め難き成長な件
「ゼロ対四で明来!! 一同、礼!!!」
「「「したァァッ!!!」」」
両チームは互いの健闘を称え、深く一礼をした。
「やったぁぁっ!!!」
守はいつになく興奮気味に喜びを体全体で表していた。
「やるじゃねーか千河!! ナイスピッチング!!」
普段クールな兵藤も、今日はとても上機嫌なようだ。
「フン! たかが練習試合勝った程度で一々騒ぐな小物が」
「ふーん。そう言う東雲も口元ニヤけてるけど嬉しくないの?」
「おやおや。東雲殿はツンデレ属性とな?」
「これはいけませんな山神殿。拙者、男同士の絡みは専門外デュフフ」
「黙れ! 粋がってんじゃねェよキモオタ共が!!」
東雲は山神と松本に強く当たるも、それ以上に周囲から弄られている。
そんな元チームメイトの姿を遠くから神崎は静かに眺めていた。
「負けちまったな」
若林が神崎の肩をポンと叩き、話しかけてきた。
「ああ。完敗だ」
「やっぱり、あの駄覇って一年はヤベェな。攻守ともに、あれは天性の才能だわ」
「あぁ。確かに彼も素晴らしかった」
「あとはやはりショート山神。マジで中学時代無名なのが謎だわ。千河も、他の奴らもたった一年で急成長してやがる」
若林は明来野球部に危機感を覚えているようだ。
「若林……、一番成長している奴がいるだろ」
「……」
神崎の言葉に、若林は口を閉じた。
頭ではわかっていても、それを認めたくないという様子だ。
「東雲……少し見ない内にすげぇ選手になってしまったな」
「……まぁな。性格は変わらずにウゼェけど」
若林は口をとんがらせながら答えた。
「口は悪いが……野球に対する取り組み方は以前より大きく変わっているように思えた。チームメイトは、そんなアイツの姿勢を知っているからこそ、しっかり向き合っているんだと思う」
「仮に今のアイツがウチに残っていれば……もしかしたら、あの西京にだって……」
「バカ言うなよ神崎! アイツなんかいなくても……いなくても!!」
若林は神崎の言葉を必死に反論しようとするも、どうしても「勝てる」という最後の言葉が出せずに固まってしまった。
「帰ったら、居残り練習付き合ってくれるか? 若林」
「当たり前だ。来月から一軍のお前に、これ以上遅れを取ってられねぇよ!」
二人は悔しさを滲ませながら、グータッチで締めくくっていた。
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