第百四十三話 一塁上の再会な件

「っしゃあ見たかゴラァ!!」


 東雲が一塁上で、べーっと舌を出して若林を挑発していた。若林は思わず地面を蹴り上げた。そしてそれを見た中谷はビクッと反応した。



「若林、キャッチャーのお前がキレてどうする! 中谷に投げやすい環境をお前が作るんだよ!」


 神崎が若林を一喝した。


 若林は、はっと我に帰り、タイムをとって中谷の元へ小走りで向かった。



「全く……東雲もこういう所はまだ子供だな」


「ウッゼェな。オメーもどうせチェリーボーイだろーが」


「お……おおおおおお前!!!! 神聖なグラウンドで何を言っているんだ!!! 口を慎め!!!」


 神崎が明らかに動揺していた。


「無理して強がるなよ……神崎。共学はいいぜ〜? 何たって女子と同じ屋根の下で一日を共にするんだ。んで俺様みたいに野球部の中心選手なら……わかるな」


「う……うぐぐ」


 神崎が歯を食いしばって東雲を凝視している。


「あ、ちなみにコイツは死ぬほどモテないから気にしないで」


 一塁コーチャーの守は呆れながら話にわって入った。


「黙れ控えが!!! テメェちょっと女子にチヤホヤされてるからって粋がるんじゃねぇ!!」


「た……確かに千河は去年の夏大でも黄色い声援が」


 東雲は血走ったメンチを、神崎は尊敬の眼差しで守に視線を送った。


「あー、もう!! あれは僕も困ってるんだって!」


 だって私も女の子だから!! と守は心の中で叫んでいた。


「自慢か? クソが」


「モテる大人の余裕か……」


 守は少し複雑な気持ちになったが、なんとか場が収束したことには一安心した。


 マウンド上に視線を移すと、若林が中谷の背中をポンと叩いてホームベースへ戻っていった。彼らも準備が整った様だ。


「四番、サード、氷室君」


 氷室の打席にあたり、外野が定位置より深めにシフトした。


 二塁にランナーがいるとは言え、一発のある氷室を警戒しての守備位置の様だ。


「山神、ワンヒットでホーム行けるよ!」


 守備位置を見た上で守は山神に声をかけた。山神はヘルメットの唾に触れてアンサーした。彼なら言わずとも守備位置を把握している筈だが、声に出して損はないと守は割り切っていた。



 ――キィィィン!!



「ライト!! バック!!」



 ツーボールワンストライクから投じられた外のストレートを氷室は逆らわずに打ち返した。


 打球はしっかり伸びていたが、予め深めに守っていたライトは何とか背走しながら打球に追いついた。


「ゴー!!!」


 捕球と同時に守は大きな声で合図を出した。山神はすかさずタッチアップで三塁に走り出した。

 ライトは急いでセカンドへ中継したが、山神は楽々三塁を陥れていた。これでツーアウト一、三塁となった。



「くそ、すまん!!」


「何言ってるの、ナイス右打ちだよ!」


 氷室は守に声をかけた。捉えた感じは悪くなかっただけに悔しさがあったのだろう。



「五番、セカンド、駄覇君」


「っしゃあ!! ようやく俺の出番だなァ!!!」


 駄覇は試合モード全開となっていた。その姿を見て中谷は大きく息を吐いていた。



 


 一回裏 途中 ツーアウト一、三塁


 皇帝 ゼロ対ゼロ 明来

 

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