第百四十話 暴君ぶりを発揮する件
――練習試合が始まった。
一回表、先行は皇帝学院二軍である。
「一番、キャッチャー、若林君」
彼は去年の一年生チームでもキャッチャーを務めていた選手である。
東雲とは元相方であり、因縁の相手でもある。彼が皇帝にいた時は随分と悩まされていたことは想像に難しくない。
「初球からシバいたれ若林!!!」
「揺さぶれ揺さぶれ!! 勝手に崩れるぞ!!」
皇帝ベンチから大声で声援が送られる。
ただ時折攻撃的な発言が聞こえてくる。それは恐らく東雲在籍時の負の遺産が、彼らにはまだ残っているのだろう。
「こいやコラァ!!!」
右打席に立った若林も、マウンド上の東雲に威嚇をした。去年までの人当たりのいい作り笑顔と一変し、敵意剥き出しで東雲を睨みつけている。
――だが当の東雲は顎を突き上げてニヤけていた。彼らのヤジすらも楽しんでいる様に見える。
終始マウンド上から他者を見下ろす姿は、さながら暴君を思わせる態度であった。
東雲は大きく振りかぶり、力強い腕の振りでボールを投げ込んだ。
――ズパァァァ……!!!
真ん中ややインコースよりのストレートだった。若林は予想以上の球威に思わず腰を引いてしまった様だ。
「ストライク!!!」
「おおお……!!」
皇帝ベンチがざわついていた。
スコアラーとアシスタントが選手に情報を伝えている様だ。
アシスタントの手にはスピードガンが握られている。その画面を見た選手達は皆二度見をしてしまうくらい驚いていた。
「百……百五十キロだ」
「アイツ……たった一年で十五キロも球速を上げたのかよ」
皇帝ベンチから、ざわめきの声があがる。
百五十キロ計測はすぐ東雲の耳にも伝わった様で、上機嫌にボールを受け取った。
監督に先発直訴をした際に掲げた自己ベスト更新の百五十キロ。これをプレイボール初球で決めたのだ、嬉しいに決まっているのである。
しかも東雲という男は、兎に角調子に大きく左右される選手である。こうした周囲の反応は当然いい方向に転がっていく。
――ズパァァァァァァッ!!!
「ストライク! バッターアウト!!」
若林の打席は一瞬で流れ去った。
東雲はテンポのいい間合いで遊び球なし、三球とも気合い入ったストレートで、若林に一度もバットを振らせること無くねじ伏せてみせた。
「来いや皇帝の三下共。俺を敵に回したことを後悔するんだな」
東雲は、かかって来いと言わんばかりに、鋭い眼差しで皇帝ベンチを一瞥した。
一回表 途中 ワンナウトランナーなし
皇帝 ゼロ対ゼロ 明来
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