第百三十四話 ⑨=バカな件

「どうどう……落ち着いて欲しいでござる氷室殿」


「こんな状況で落ち着いていられるか!!」


 ――ピチューン!


 氷室の操作していた自機が弾に当たり、泡となって消え去った。彼らは部室でシューティングゲームを行っていた。


「ほら、慌てて動き回るから避けられなかったでござる」


「だ……だが一気にあんなに沢山弾が出てきたら誰だって焦るだろう」


「では僭越ながら拙者が挑戦するでござる」


 そう言って山神は氷室からコントローラーを引き継いだ。スムーズな操作で難なく先程氷室が破れ去ったステージまで駒を進めた。


「あ、出た出た!! ほらこの青い少女が出てきて氷柱の弾をこんなに沢山……」


 氷室がプレイしていないにも関わらず慌てている。そんな彼の肩を松本が優しく叩いた。


「まあまあ、よくご覧下され。こうしたボスの弾幕には一定の法則があるでござるよ。ほら」


 松本の言った通り山神の自機は、敵キャラクターの青い女の子の目の前にいるにも関わらず、全く弾に当たっていなかった。


「シューティングゲームには安全地帯という、そこにいれば弾は当たらないゾーンがありまする。ただこの技は、あろうことか自分の目の前が安全地帯なんでござる」


「他のシューティングでも中々お目にかかれない、おバカ技なんデュフフ」


 山神と松本は楽しそうにゲームを進めていた。


「というより、なんで俺たちは合宿期間にも関わらず部室でゲームさせられてるんだ……」


 氷室が嘆いていた。


「俺は楽しいから別にいいけどな」


 兵藤が三人を尻目にパソコンと向き合っていた。彼はオンラインポーカーをしているようだ。彼のプレイ画面は次から次へと移り変わっていく。


「ポーカーってそんなに進行が早いゲームだったか?」


「ああ、これ十面打ち」


 氷室の問いかけに、画面から目を離さず兵藤が回答した。


「十面!? しかも対人のオンラインだろ。できるものなのか」


「俺は慣れてるから。ただ白川から十面打ちでゲーム内通貨を一週間で百倍にしろって言われてるから、ミスれないよね」


 そう言いながら兵藤は間髪入れずに高額のチップをベッドした。役は何もない、ただのAハイカードだった。


「ちなみに、その通貨って……本物?」


「勿論。まぁ名義は成人の監督だから大丈夫っしょ」


 氷室は知ってはいけない世界を知ってしまったような気持ちになったようだ。


「合宿が終わる頃には、道具を全部一新できる程度には勝ってやるよ。ほら見てみな」


 兵藤が先ほど高額ベッドをしたテーブルへ移動させた。対戦相手は深読みしすぎたのか降りていた。


「こいつは今までのプレイを見ていると、高額ベッドに対して降りすぎていたんだ。固いと言えば聞こえはいいが、俺からしたら非常にやりやすい相手さ」


 氷室はポーカーについて詳しくないが、彼の読みが鋭いことは何となく理解した。


「氷室、お前は体格も身体能力も高い。ただ咄嗟の応用がきかないんだよ。だから反射神経ゲーや頭脳ゲーで頭の回転を速くさせようってことなんじゃねーの」


「そ……そういうことなのか」


 氷室がこの現状に納得した様子だ。


「いやマジでお前がクレバーになれば脅威だぜ。元々飛距離とパワーは強豪校のレギュラーと遜色ないと思うし」


 氷室が画面を見ながら淡々と、だがハッキリと氷室のことを口にしていた。また勝ったのか、彼の名前の下に表示されている数字がドンドン増えていっている。


「よ……よし、それならもう一度。まずはイージーモード攻略だ」


 そう言って氷室がコントローラーを手に取った。




 ――ピチューン!!!



「あああああ!!! また死んでしまった!!!」



「前途多難でござるね」



 部室は笑い声で包まれた。

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