百二十一話 明日は我が身な件
「スリーアウトチェンジ!」
七番青山のバットが空を切り、明来の攻撃は終了した。
五番氷室は四球を選び、ワンナウト満塁になったものの、その後はキッチリと轟大学のピッチャーが押さえ込んだ。
「クソッ、マグレが続きやがって!!」
轟大学のピッチャー
「俺は去年甲子園のマウンドで投げてたんだぞッ! 無名高校の癖に勘違いしやがって!!」
「勘違いしているのは君だよ。炎常君」
「――ッ!!」
ベンチの前に立つ若井監督は厳しい表情をしていた。
「何ですかこの配球は。いくら今日カーブが安定していないからって、まっすぐ一辺倒。まさか実績のない高校生程度ならまっすぐだけで抑えられると思ったのですか?」
炎常は頭の中を見透かされた気持ちだった。見るからに素人も混じっている高校生のチーム相手なら、自慢のストレートだけでも余裕で抑えられると考えていたのだ。
「高校野球全体レベルは年々上がっています。去年までプレーしていて感じなかったのですか?」
若井監督の言う通り、高校野球のレベルは近年目覚ましい。
練習自体が量より質へのシフト転換やピッチングマシン等も普及している。
また今までの常識を覆す数多くの知識や、更には動画サイトなどで一流プレーヤーの理論がいつでも無料で観られるようになった。現代は選手が効率よく成長できる環境が整ってきているのである。
「言いたくはなかったですが、彼らと同い年の西京、紫電君と黒江君との甲子園三回戦。結果は覚えていますね」
それは西京か八対ゼロで完勝した試合だった。炎常は五回を持たず五失点。対する黒江は六回ゼロ封、被安打は一本という対照的な結果だった。
プライドの高い炎常だが、四番紫電に対しては完全に萎縮してアウトコースしか投げられなかった。その上で長打三本を打たれてしまった。
「彼らは別格ですが、下の代だからといって甘くみると痛い目を見ます。わかりましたね」
炎常がぐうの音も出ないような表情で頷いた。
「交代です。まだダウンするのは早いので、即外周20周して来て下さい」
若井監督が炎常の背中をポンと叩いて、耳元で囁いた。炎常は血の気が引いたかのように青ざめていた。
その光景を見ていた他の選手たちも同じような表情をしていた。明日は我が身かと思わんばかりに。
「次は六番からですよ。早く準備して下さい」
「はっ……はいっ!!」
四回表 開始前
轟大学 ゼロ対一 明来
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます