第百十八話 新球をお披露目する件
「ストライク!」
バッテリーの予想通り、駄覇は初球から手を出してきた。ストレートに絞ったスイングだった。
「初球からチェンジアップ……先輩方、マジメすぎ」
「一打席目から振ってきたからな。警戒して当然だろ」
不破はボールを返球しながら答えた。
『あれだけフルスイングしても、顔の位置は変わらない。地道な努力の賜物だろうな』
『――だが冬の間、僕たちは課題を考え、一つずつ潰していった。これがその一つだ』
不破と守の考えは一致していた。守はサインに頷き、投球フォームに入った。
『チェンジアップの後――恐らく緩急を活かした力強いストレート。インコースに来たら強く叩く』
駄覇の狙い通り、ボールはインコースに投げ込まれていた。
『前で――捌く!』
駄覇のバットがボールへ振りこまれる。
――ギュンッ!
「なッ!?」
ボールは駄覇の手元で、バットの芯から逃げるように僅かに曲がった。
――キィンッ!
打球は一、二塁間に転がっている。青山は横っ飛びをするも打球に追いつけなかった。
「東雲頼む!」
守は一塁へカバーに行きながら声を出した。
「誰に物申してるんだッ!」
東雲は左手を目一杯伸ばし、なんとか打球に追いつき、回転しながら一塁へ送球した。
守は少しそれた送球をしっかり捕球し、駄覇より僅かに早く一塁ベースを踏んだ。
「アウト!!」
「っしゃあ!!!」
「ナイスピッチ千河!!」
「はぁ!? 今のは俺様のファインプレーだろうが!! また助けられやがって、このヘボが!!」
明来守備陣に視線を向けながら、駄覇はベンチへ歩いていた。
「義経、アウトになったのに嬉しそうだね」
若井監督がベンチへ戻った駄覇に声をかけた。
「カットボールっす」
「ほう……去年まで無かった球種だね。そんな良いボールだったのかな」
「直前までストレートと見分けがつかなかったっす。手元でほんのちょっとだけ曲がりました」
駄覇は再度、マウンドに目を向けた。
「千河、不破……おもしれぇ先輩だな」
三回表 途中
轟大学 ゼロ対ゼロ 明来
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