第百十七話 もっと投げたい件

 ――カァンッ!


「ショート!!」


 轟大学の九番打者の鋭い打球がショートを襲う。だが明来のショートは名手の山神。彼は流れる様に打球を捌き、一塁へ送球した。


「アウト、スリーアウトチェンジ!」


 二回表、守はヒット二本を打たれるも要所を抑え、無失点で切り抜けた。


「ふぅ……やはり名門大学だね。どの打順のバッターも凄いバットが振れてるね」


「あぁ……何とか要所で流れを断ち切れてる感じだな」


 ベンチに戻りながら守と不破が話をしていた。轟大学の選手は控えとはいえ、現状の自分たちを遥かに超える高校野球キャリアを経験している。その実力差を痛感していた。


「次は二巡目……正直五回までは持たせたいけど、いけるかな」


「配球は何とか考えてみる。その為にも千河は上手く攻撃中サボってくれ」


 不破の言葉に守はしっかり頷いた。彼もまた守に自信をつけさせようと尽力してくれる様だ。



 その後、五番氷室がフォアボールで出塁し、守はキッチリ初球送りバントを決めた。ベンチに戻って守は少しでも長く休養に努めた。

 その後七番青山、八番風見は共に三振に倒れた。正直下位打線には荷が重いピッチャーである。


「千河」


 マウンドへ向かう守へ不破が話しかけた。


「不破、どうしたの」


「さっきも話したけど、三回は一番から始まる。目が慣れてきた二巡目だ」


 ――ゴクリ。


「この回の出来で目標の五回まで行けるか、見えてくるはずだぜ――アレ、試すぞ」


「あ……、応っ!」


 守がグラブを叩きながら応えた。



「三回表、轟大学の攻撃は――」


「一番、ライト、駄覇君」


「よっしゃァ、また打ってやんよ!」


 駄覇が叫びながら左打席に入った。先ほど彼はレフト線へツーベースを放っている。


『分かってるな千河。こいつを完璧に抑えるのがこの回のキモだ』


 サインを見つめた守は不破の心の声が聞こえた様な気がした。ただ、それほどに不破の気合を感じるリードであった。初球チェンジアップ。初球から振ってくる傾向を踏まえ、三振を狙いにきたリードだ。


 守はじっと不破の顔を見つめた。彼は神経を研ぎ覚ましている表情をしていた。皇帝学院戦以来の超集中モードだ。


『あとは私がリードに応えるだけだ』


 守は静かにロジンパックを手に取り、息を吹きかけていた。


 三回表 途中


 轟大学 ゼロ対ゼロ 明来

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