第百十六話 レーザービームが射出された件

 ――コィンッ!


 二番不破のバントは、しっかり打球を殺していた。


「ファースト!」


 捕球したピッチャーが丁寧に一塁へ送球した。


「アウト!」


 この犠牲バントにより、ワンナウト二塁のチャンスを作ることができた。


「三番、ショート、山神君」


「よっし、チャンスで山神だ! 頼むぞー!」


 守がベンチから山神へ声援を送る。


 ワンナウト二塁でクリーンナップ。バッテリーとしては最低でもツーアウト三塁。できれば三振か内野フライで進塁させずに抑えたいところだ。その為には球威で押していくのがベストだろう。

 また二塁ランナー兵藤は俊足。下手にカーブでコントロールミスをした結果バッテリーエラー、タダで三塁に進ませるのは勿体ない。ただでさえカーブはまだコントロールが安定していない。


 ――そんな考えから投じられたストレートを山神が逃すはずが無かった。


 ――パキィィン!!!


「抜けたっ!!!」


 打球は鋭く一、二塁間を抜けるライト前ヒットとなった。兵藤は当然、果敢にホームを狙っていた。



 ――だが。


 ギュンッ!!!


「アウト!!!!」


 主審の声が鳴り響いた。


 誰もが目を疑った。明来ベンチは勿論、アウトになった兵藤、そしてタッチアウトを奪ったキャッチャーまでも。ライト駄覇からのレーザービームが飛び出したのだ。


「あの位置からノーバウンド、ストライク送球……」


 駄覇の位置は約七十メートル。その距離から低い弾道のままキャッチャーミットに投げ込んだのだ。


 ただ送球の間に山神はしれっと二塁に到達していた。こういう細かい走塁一つとっても彼の野球IQが伺える。ツーアウト一塁とツーアウト二塁では得点期待値がまるで違うのだ。


「悪りぃ東雲、あとは頼んだぜ」


 兵藤は表情を戻し、東雲の肩を叩いてベンチへ戻って行った。


「ったく、俺様に任せて三塁で止まればいいものを……せっかちな野郎だぜ」


「四番、セカンド、東雲君」


 東雲は息を吐いて右打席に足を踏み入れた。先ほどまでのチャランポランな雰囲気から一変、真剣な眼差しをピッチャーへ向けた。


『このガキが……甲子園ピッチャーの俺にガン飛ばしてやがるだと』


 初球、インコースへ力強くストレートがミットに吸い込まれた。


「ストライク!!」


「うわっ! なんか球威上がった!?」


 守が驚くのも無理はない。先ほどまでの百三十キロ後半のストレートとは違い、最速に近い百四十キロ中盤のボールを投げ込んだのだ。


「ハハハ、相手のピッチャーもようやくやる気になったのかもしれませんね」


 上杉監督がヘラヘラ笑っている。


「いや、笑ってないで指示出したりしないんですか?」


「でもツーアウトですからねぇ……あ、そうだそうだ」


 上杉監督は空サインの後、東雲にホームランを打つ様ジェスチャーをしてからウインクをした。それを見た東雲は眉間にシワを寄せた。そして彼の舌打ち音がベンチにまで聞こえてきた。


「これで東雲君、やる気満々ですね」


「どこがだよ……」


 守は呆れ返っていた。


 ――キィィィン!!!


 東雲のバットから快音が鳴り響いた。


 しかし、打球は一瞬にしてピッチャーのグラブに吸い込まれていった。火の出るようなピッチャーライナーだった。ピッチャーも捕ったというより、たまたま捕れてしまったといった感じだろう。


「あぁっクソッタレ! あのバカ監督が惑わして来たから手元が狂った!! あの野郎どっちの味方なんだよクソが!!」


 東雲が明らかに不機嫌そうにベンチに戻って来た。


「惜しかったね東雲君。でもあんな鋭い打球、流石四番だね。はいグラブと帽子」


 風見が笑顔で東雲に道具を渡した。ナイス風見。今の東雲をベンチに長居させてはいけない。


「ったく、所詮凡打だし褒めてるんじゃねーよ。これだから素人は」


 言葉とは裏腹に口元を緩ませながら東雲は守備へ向かっていた。彼のお世話係として風見の功績は計り知れない。


「ヒカル、二回もピシッと頼んだわよ!」


 瑞穂が元気に守を送り出した。


「任せてよ、僕は明来のエースだから」


 守は笑顔で応え、マウンドへ向かって行った。


 

 一回表 終了


 轟大学 ゼロ対ゼロ 明来

 

 

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