第百八話 新入部員の経歴がすごい件
「……これが駄覇のプレーシーンか。すごいな」
明来野球部は練習前、部室でパソコン画面の前に集合していた。
動画タイトルは「全国制覇、西東京シニアの心臓 最強マルチプレーヤー 駄覇義経」とある。
本当に便利なもので、今の時代、検索ひとつで有名な選手の動画が観ることができる。改めてすごい時代になったものである。
「一回戦はピッチャーで完封。二回戦は左利きながらショートを守り、何度も好守でチームを救う。三回戦では最初はセンター、途中から怪我で負傷した正捕手に代わってマスクを被り、盗塁を二つ刺す……」
「そして決勝でも完封勝利……物凄いな」
「打撃でも全国大会で打率五割超え、当然ながら大会MVPをとったみたいだね」
「はあー」
皆、悔しくも彼の実力を認めざるを得なく、大きく息を吐いた。
「そりゃあ、一年前の全国二回戦で戦った東雲の事なんか覚えてないよね」
「はぁ!? 千河テメェ、俺アイツからヒット打ってんだぞ! ……初回に一本だけ」
「それ以外は?」
「……三打席三振だ、文句あるか?」
東雲が千河を睨みつける。千河は手を上げ、首を横に振る。
「ごめんごめん、言いすぎた。全国大会で試合に出てるだけでもすごいよ」
「ったく、分かればいーんだよ」
なんとか東雲の機嫌は戻った様だ。
「でも確かに、全国大会に出てる選手の中でも格が違うって感じだね」
風見は感心したように話していた。
「ここまで周りと差があると、本人もビッグマウスになっている自覚はないんだろうな」
「ちょっとムカつくけど、山神っちとはまた違った野球センスの持ち主っぽいねー」
青山の言う通り、駄覇のプレーは山神とは何となく雰囲気が異なる。
山神は持って生まれた反射神経、体のバネやバランス感覚で、想像を超えたオリジナリティ溢れたプレーを魅せる。
対して駄覇は、あくまで基本的な動きの中に洗練された技術が凝縮された完璧なプレーといった感じだ。本来、血の滲む努力をしないと身につかないであろう、非常に安定した動きである。正に野球の申し子と言わんばかりの万能さだ。
「とにかく、ウチの戦力が大きく上がるのは間違いないんだし、今は待とうよ!」
瑞穂が雰囲気を変えようとしたが、他のみんなは素直に同意はできない様子だ。誰しも駄覇の実力は認めているが、やはり舐められている事実を受け入れるのは嫌なのだろう。
「あ、そうだ!」
瑞穂は何かを閃いた様だ。ただ守は嫌な予感がした。恐る恐る瑞穂の方に視線を送ると、案の定瑞穂と目が合った。
「ヒカル、明日から駄覇君を追跡するよ」
――守は予想通り、面倒ごとに巻き込まれたのであった。
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