第百九話 新入部員を追跡する件
――次の日の放課後。
駄覇にバレない様、彼の後を瑞穂と守がついて行っている。
「瑞穂……やっぱりやめとこうよ。ストーカーは流石にダメだって」
「何言ってるの。ストーカーなんて聞こえが悪い。私は可愛い後輩を心配して様子を伺っているだけよ」
守は物は言い様だなと思った。
「もしかしたら参加できない理由があるかもしれないでしょ? 内容によっては私たちがサポートできるかもしれないし」
守の心情を読んでか、瑞穂は理由を付け加えていた。
「でもさ、山神とかのケースでも監督はプライベートに首を突っ込むなって言ってるじゃん」
「じゃあ守はあのままでいいの? いくら駄覇君がいても、チームがバラバラだと甲子園なんて絶対無理だよ!」
甲子園に行けない……それは守にとって最も突き刺さる言葉だ。守はこれ以上は発言せず瑞穂の後をついていった。
――その後三十分ほど電車に揺られ、とある駅に降りた。そして最寄りのバスに乗り込んだ。
バスは電車と違って距離を取ることができないためバレないか心配していたが、駄覇は席に座るなり眠りについた。二人はゆっくりと一番奥の座席に座った。
駄覇が降りた駅で下車すると、立派な野球場が目の前にあった。
轟大学――野球で有名な大学の専用グラウンドだ。駄覇はそのままグラウンド横にある小さな建物に入っていった。
「何でこんな所に……」
「勿論、ここで野球するためでしょ」
瑞穂の予想通り、駄覇はユニフォーム姿になって建物から出てきた。そしてそのままグラウンドに入っていった。
二人は見つからない様に、グラウンドがある坂の上の方から状況を眺めていた。
フリー打撃では左打席から左右に力強い打球を放っていた。しかも大学生と同じ木製バットを使用している。体の重心が低い構えから、全身を使ってフルスイングをしているが、体のブレは全くない。
「……上手いな」
「上手いね」
「フリー打撃とはいえ内と外、方向に逆らわずにしっかりミートしている。打ちミスはほとんどない」
守の言う通り、駄覇のバットはとても正確だ。他の選手も流石は野球の名門、轟大学といった技術を持っている選手ばかりだが、駄覇も決して他に劣っていない。
「大学生に混じってもここまで引けを取らないなんて……」
「ここまでのレベルだと、確かに高校野球を甘く見ちゃうのも分からなくてないね」
瑞穂の言葉は確信をついている。野球名門大学には高校時代に活躍した選手が集まってくる。甲子園出場選手も当然その中にいる。
そんな選手層の中でも、ついこの前まで中学生だった駄覇は劣ることなくプレーしているのだ。そんな彼としては、当然同年代は相手にならないと思ってしまうだろう。
「あのー、君たち?」
「ぎゃあっ!!」
ふと背後から声をかけられ、二人は大きな声をあげてしまった。
彼女たちの振り向いた先には、ユニフォームを着た選手が笑顔で立っていた。
「君たちは高校生かな? もしかして見学に来てくれたの?」
「あ……ええと……」
「はい、私たち明来高校の野球部です。失礼ながら御校の練習を見学させて頂いておりました」
守が狼狽している中、瑞穂がお手本の様な自己紹介を行い一礼した。守もそれに続く。
「明来……あっ! 義経の学校じゃん。そっか高校の練習行ってないみたいだからなアイツ」
この大学生は駄覇の事を詳しく知っている様だ。
「隠れて見学したいんだろ? 良いところがあるぜ。ついて来なよ」
そう言って彼は右手を振り、二人を手招きした。守と瑞穂は顔を見合わせ、そして後をついて行った。
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