第百七話 新入部員が来ない件

 ――入学式から十日ほどだった頃。


 明来高校一年B組。帰りのホームルームが終わり、各々部活やら帰宅やらの準備をしている中、駄覇義経は暇そうに大きな欠伸をかいていた。



「駄覇、お前何部に入るか決めた?」


 彼のクラスメイトが声をかけた。駄覇はめんどくさそうにそちらに目を向けた。


「んー、野球部」


「マジかよ!? だってお前、体験会の期間どこの部活にも行かずに帰ってただろ?」


「だってめんどくさいじゃん。先輩関係とか怠いのは嫌いなんだよなぁー。試合だけ出ればいいかなーって」


 駄覇は体を起こすべく、大きく伸びをした。


「確かに野球部って、上下関係厳しそうだもんな。他の部活にすればいいじゃん」


「だって俺、こう見えて全中制覇したピッチャーだしさー。一番才能があるモノ続けた方が楽じゃん」


「マジかよ、人って見かけに寄らないのな」


 クラスメイトは思わず本音を漏らしたが、駄覇本人はまるで気にしてない様だ。


「お前、ポジションはどこだったんだよ」


「んー、何処だろう。強いて言うならピッチャーかな?」


「なんだよ、決まってないってことは控えだったのか?」


「いんや、俺ってどこ守ってもチームで一番だったから、その時その時で変わるんだよな。本当、めんどくさい」



 ――バンッ!!!



 突然、ドアが力強く開かれた。


「駄覇! 駄覇はいるか!?」


 二年生の少しヤンキー目な男子生徒が大声を上げて教室に入り込んだ。クラスメイトは皆驚きの表情を浮かべている。


「東雲君やめて! そんな大声だとみんなビックリしちゃうから!」


 後ろからかなりの美人と、更に男子が二名ほど気まずそうに立っていた。中性的な顔立ちのイケメンと、凛々しい男子だ。


 クラスメイトの皆は駄覇に救いの目を向ける。早くこの場を何とかしてくれと言わんばかりだ。


「駄覇、もしかしてこの先輩たちって……」

 

「はぁ……めんどくさい」


 駄覇は溜息を漏らしながら席を立ち、ドアの方へ向かった。


「お前が駄覇だな。確かに見覚えがあるぜ」


「え……先輩だれ?」


「テメェ忘れたのか!? 一年前に全国で戦った……ぐふっ」


 ヤンキーの口を凛々しい方が手で抑えた。


「急にすまんな、駄覇。野球部キャプテンの氷室だ」


「ども。駄覇です。で、何の用ですか?」


「なぜ一度も練習に顔を出してくれないんだ?」


「え、練習って出る意味あります? 試合だけでて結果出せばいいでしょ?」


 駄覇が首を傾げて答えた。


「お前! 僕たちのこと舐めてるだろ!!」


「ヒカル、どうどう」


「ムムムムムーーーッ!!!」


 今度は奥のイケメンの方が声を荒げた。ヤンキーの方も声を喚き散らそうとするが、口を塞がれたままである。

 

「駄覇、お前の実績は充分知っている。だが俺たちはチームだ。個々のレベルアップや連携を確認する意味でも練習に来て欲しいのだが」


 氷室は冷静な口調で駄覇に語りかける。


「え、それって意味あります?」


「どういうことだ?」


「所詮、歳が二個上までしかいない野球でしょ? そんなレベルの野球、俺だけの力で勝てますよ」


 この言葉に、流石の氷室もイラッと来たのか、眉を微妙に動かした。


「高校野球のレベルを知らないんだな、笑っちゃうね」


「ヒカル、どうどう」


 またしてもイケメンの心境を美女がなだめている。


「だってシニアの時俺に勝てなかった人たちでさえ何人も甲子園出てるんでしょ? だとしたら俺がいれば当然、楽勝で甲子園行けると思うんですが」


 駄覇の顔、声に悪気は一切感じられない。彼は本心からそう思っている様だ。


「じゃあ、来てもらって悪いんですが俺帰るので」


「お、おい。まだ話は終わって――」


 氷室の声を背に、振り向く事なく駄覇は帰っていった。


「ムーッ!! ムムムーーーッ!!!」


 氷室は東雲の口を塞いだままだとようやく思い出し、急いで手を離した。解放された東雲は死にそうな顔で息を切らしていた。

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