第八十話 バレバレの嘘

 五回表を三者三振で抑えた神崎は、右肩を回しながらドリンクを口にしていた。


「神崎」


 太刀川が神崎に声をかけた。


「はい! なんでしょうか太刀川さん」


 神崎は相変わらず丁寧な口調で返事をした。


「お前……さっきから肩を回してるが、何かあった?」


「いえ! 特に意識をしていませんでした!」


 太刀川の問いに、神崎はハキハキと返事をした。


「そうか、それなら良いんだが。何か違和感があるなら言えよ」


「はい! お気遣いありがとうございます!」


 神崎は一礼し、再度ドリンクを口にした。



 

 ――神崎の嘘は、太刀川にバレていた。


 太刀川は見逃さなかった。肩の話をした時、ほんの一瞬目が大きく開いたこと。そして右上を見てから答えたこと。


 人は嘘をつく時、咄嗟に考えを巡らせるため、右脳が活発に働く。その為右上を見る行為は、嘘をつく人に現れやすい現象なのだ。


 太刀川はキャッチャー故に、そういった選手の目線にも注意を払っている。昔から神崎を見ている事もあり、彼の嘘は一瞬でわかってしまった。


 神崎はまだ一年生だ。体はまだまだ成長途中である。そんな身体で、百五十キロを投げる馬力でかかる負担は相当なものだろう。


 太刀川は他の選手に悟られないよう、中島監督に状況を報告した。


 話を聞いた監督はすぐに宮西を呼び、彼に次の回から投げるよう指示した。既にアップを済ませていた宮西は、すぐに投球練習に入った。


「神崎、お疲れだ。六回からライトに入れ」


 監督からの指示に、神崎は驚きの表情を浮かべていた。


「かしこまりました――何かピッチング内容が良くなかったでしょうか」


「いいや、次回以降の試合のことも考えて温存したいだけだ。宮西も最近投げてないから、少し調整させたい。引き続きバッターでも頑張ってくれ」


 監督は神崎のモチベーションを落とさぬよう配慮してフォローした。

 

 戦況を確認すると、六、七番ともにアウトになっていた。ただどちらも打球は悪くない。


「アウト!」


 八番もサードゴロで、三者凡退となった。あっさりと攻撃を終えてしまったが、皇帝のエース宮西にとっては十分すぎる準備時間だ。


「ピッチングから流れを変えてやるぜ」


 宮西が意気揚々とマウンドへ駆けていった。


 五回裏 終了


 明来 一対ゼロ 皇帝学院

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