第七十九話 食後のドリンクと共に

 お昼の喫茶店、山﨑は食後にもアイスコーヒーを注文して、その味を楽しんでいた。すっかりこのお店の虜になり、テレビに映る激戦を前に、席から立てずにいた。


「スリーアウト! 千河君、この回もゼロ点で抑えました」


「低めのボール球でしょうか。神崎君も上手く拾ったのですが、流石は明来の守備職人、山神君がしっかり捕球しましたね」


 解説人も、この一連のプレーを称賛していた。だが山﨑は少し恐怖を感じていた。


『前の打席でもボール球を打たされ、伸びのないセンターフライ。だけど今回は神崎がしっかり対応した……』


「どうしたんですか、難しい顔をして」


 山﨑の表情を見て、マリが声をかけた。彼女はアイスティーを飲んでいた。


「ああ……神崎の打席だけどさ。球種は違うけど、前の打席で捉えられなかったコースを、今回しっかり対応したよね」


「はい」


「この試合の中でも更に成長しているって感じてさ。打席を重ねるごとに内容が良くなっている」


「確かに……千河君、このまま頑張ってほしいですけど」


 マリは頷きながら答えていた。


「てか仕事は大丈夫なの? まさにランチタイムだけど」


「大丈夫ですよー。いつのまにか席は満席、ご注文の品は全テーブルに揃って、この暑さなので暫くみんな動かないでしょうし」


 マリはただテレビを観てるだけでなく、しっかり店内の状況も把握をしていた。意外と要領よく仕事をこなしていて、山﨑は驚いていた。


「三振です! 神崎君、五回表は三者連続三振に仕留めました!」


 神崎は雄叫びをあげ、右腕を回しながらベンチへ戻っていった。


「うーん、明来は下位打線になると一気に打力が落ちるなぁ」


 山﨑がアチャーと言う感じで呟いた。


「前の試合はみんな頑張ってたみたいですけど、流石に神崎君を打つのは難しそうですね」


 マリも同じような反応をしていた。


 この回の最速は百四十キロ、制球重視のピッチングだったが、それでも明来の下位打線には荷は重かったようだ。


 ――だが、山﨑は一つ、神崎の姿に違和感を覚えていた。




 ――このピッチャー、さっきから妙に右肩を回しているが、これは癖なのか?



 五回表 終了


 明来 一対ゼロ 皇帝学院

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