第七十八話 それは一瞬の出来事でした

「ストライクツー!」


 守得意のフロントドアスライダーで、神崎を追い込んだ。


 カウントはツーエンドツー。ワンツーからだと際どいコースには手を出してこない、不破のリードが正しかったようだ。


 だが、追い込んでからの神崎も、油断は一切できない。


 山神の様に、コンパクトなフォームに大きく変更するわけではないが、ミートポイントが一層手元よりになる、と東雲から聞いている。


 ――キィン!


「ファール!」


 プロ野球で観る様な、お手本の様なファール打ちだ。打球は一塁側スタンドの方へ切れていった。この、手元よりにミートポイントを設定するのは、神崎のスイングスピードがなせる芸当だろう。


 ――その後、更にファールを二球挟み、粘られ、フルカウントとなった。


 バッテリーが最後に選んだボールは、低めボール球のチェンジアップ。見極められたらフォアボールだが、ノーリスクで抑えられるバッターではない。これが最善だろう。


『腕を振れ! ストレート以上に強く!』


『ワンバウンドでも良い、低く、低く』


 思わず守は東雲から教わった時の事を思い出した。


 相手は間違いなく同年代最強の選手――絶対に抑えたい。


 ――私だって、女子高生最強のピッチャーだ!


 大きく上げた右足を、力強く前方へ踏み込む。右手で身体の開きを抑え、そして一気に右手をグラブごと右脇の方へ引き込む。それに釣られて、自然と左腕の振りが加速する。


 ――キィィン!


 スパァァァァン!!!


 一瞬の出来事だった。


 神崎が放った弾丸の様な打球を、山神がジャンプ一番でキャッチした。


 四回裏 終了


 明来 一対ゼロ 皇帝学院

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