第七十七話 天才としての差
「五番、ピッチャー、神崎君」
神崎の名前がコールされると、球場全体が大歓声に包まれる。
十年に一度の天才、そう言われる理由もわかる。
一年生で百五十キロを投げ、バッティングセンスもピカイチ。リトルリーグ時代から怪物と称されていた彼の人気は絶大だった。
そんな彼と、短期間ではあったが一緒に野球をしていた東雲は、アルプススタンドでイライラしながら戦況を見つめていた。
東雲が皇帝学院にいた期間はほんの二ヶ月ほど。だが、神崎の凄さを知るには十分すぎる時間だった。
ブルペンで、隣で投げている彼だけボールの勢いがまるで違った。キャッチャーの捕球音も、それはもうえげつないものだった。
一年生で彼のボールを捕れる捕手はおらず、太刀川や、他の一軍キャッチャーが相手をしていた。
バッティングも打球速度がまるで違った。一年生の誰よりも先に先輩たちに混じり、フリーバッティング入りを認められ、右に左に打球を飛ばしまくっていた。
東雲も、シニア時代はそれなりに名の知れた選手だった。地元では知らぬ者のいない、それこそ天才と言われる程の成績は収めていた。
現に各地の実力者が入学する皇帝でも、東雲は突出していた。間違いなく、新入生ナンバーⅡの実力である。
――だが神崎はその更に、更に上を行っていたのだ。
同じ右投げのピッチャー、センスの差を嫌でも感じてしまうのも無理はない状況だった。
だからこそ東雲は皇帝を出ることにした。先輩やコーチ、監督が口うるさい事もストレスだったし、明来野球部での野球が面白そうとも思った。
だが根底には神崎というライバルを、チームメイトではなく対戦相手として向き合いたかったのだ。
だからこそ、東雲は転校して試合に出られない歯痒さ、あと単純に人気への嫉妬にイライラを隠せないのだった。
今日、千河の調子はかなり良い。自分が伝授したチェンジアップも有効に使えているようだ。
そして、前の打席でもわかったように、低めのボール球を打たせることができれば、抑えられる可能性はグンと高くなる。
柄ではないが、二ヶ月間で研究した神崎攻略法を丁寧にバッテリーに教えた甲斐があったようだ。
戦況に戻ると、千河はツーエンドツーまでカウントを整えていた。
「っしゃー! そんな木偶の坊、三振に取れや千河ァ!」
マウンドでの千河が、一瞬笑みをこぼしたように見えた。
四回裏 途中 ニ死一、三塁
明来 一対ゼロ 皇帝学院
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