第六十八話 目覚めつつある頭脳

 キャッチャーマスクを被っている不破は、物凄く緊張している。ただ身体の調子はすごく良い。緊張によりプレーに支障はでないだろう。


『太刀川さん……やっぱりカッコいいな。それでいてプレーヤーとして素晴らしい』


 不破はつい先ほどの対決を思い出していた。憧れの太刀川が一礼して、バッターボックスに入った。緊張でつい素っ気ない会釈になってしまったが、この瞬間が嬉しくてたまらなかった。


 そして彼の天才的バッティングセンスに驚きも感じていた。完全に裏をかいたストレート三球勝負だったが、それにしっかり対応してきたのだ。ショートが山神でなかったら、間違いなくレフト前ヒットだっただろう。

 ただ、格上の太刀川に一本取ってやったという気持ちを不破は正直に感じていた。


『内容はどうあれ、あの太刀川さんを抑えた――俺のリードで』


 成功体験で彼の神から授かった脳にドーパミンがドクドク分泌されていた。


「お願いします!!」


 強豪、皇帝学院の五番に入っている神崎が元気に一礼した。一年生から皇帝で試合にバリバリ出ているからか、彼は自信に満ちている様だ。


「千河ァ! テメーぜってぇ打たれるなよ!」


 アルプススタンドから東雲の声が聞こえる。この大声援の中でも、ハッキリと。


 神崎は同級生の中でもナンバーワンプレーヤーだろう。あの東雲や山神よりもすごい選手だ。


『今大会、神崎は五番打者として打率は五割以上、ホームランを二本も打っている……』


 不破はここまでの神崎の公式戦打撃映像を脳内再生した。迷いのないスイングを初球からガンガンに繰り出してくる。


 ――!


 不破の頭に神崎攻略の方程式が完成した。要求は決まった。サインを見た守はゆっくり頷いた。


 ――キィィン!


「センター!!」


 大きな打球――だが伸びはなく、予めポジションを下がっていた兵藤のグラブにしっかりボールは収まった。

 ストライクからややボールになるツーシーム。いくら神崎でも低めボール球のアウトコースをスタンドインはできないだろう――現時点では。


 その後も不破のリードは冴えに冴え、二回までパーフェクトに抑えてみせた。


 二回裏 終了


 明来 一対ゼロ 皇帝学院

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