第六十一話 下克上開始

 夏予選、四回戦当日。


 スタンドには、四回戦とは思えない程の観客が集まっていた。


 観客席にはビデオカメラを持っている人がたくさんいる。野球部員だけでなく、大人の人もカメラを回している。彼らは何かしらのスカウトなのだろう。もっとも、彼らのお目当ては皇帝学院の選手達だろう。


 明来ナインは円陣を組んでいた。


「この中に皇帝学院の勝利を予想している人はどれくらいいると思う?」


 守が全員に問いかける。


「明来高校の生徒以外全員だろうな」


 不破が答えた。


「そんな中、俺らが勝ったら大穴馬券だな」


 兵藤がニヤリと笑う。


「この場にいる全員を驚かせたくないか?」


 氷室はナイン一人一人の顔に視線を送った。


「下克上……したいでござるな」


 山神もニヤリと笑った。


 全員が、練習試合のことを思い出しているようだ。各々悔しい経験を乗り越えて、このグラウンドに立っている。


「僕は……二度とあんな思いはしたいない」


 守が一言だけ、だがハッキリと声を発した。それを聞いた全員が小さく頷いた。そして皆の視線は氷室に向けられる。彼は大きく息を吸い込んだ。


「絶対勝つぞ!!!!!」


「「「「 おう!!!!! 」」」


 明来ナインの思いは一つになった。


「整列!」


 主審から声がかかる。


 明来ナインはベンチ前で一列に並んだ。


「いくぞ!」


「「「おぉ!!!」」」


 氷室の声かけに全員が反応し、整列へ走り出した。


 ついに、皇帝との試合の幕が開ける――。


 明来高校スタメン


一番センター兵藤

二番キャッチャー不破

三番ショート山神

四番サード氷室

五番ピッチャー千河

六番ファースト青山

七番セカンド風見

八番レフト大田

九番ライト松本


 試合下克上開始


 明来 ゼロ対ゼロ 皇帝学院



 


 

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