第六十話 強者の準備

 ――皇帝学院、野球部ミーティングルーム内。


 強豪である皇帝学院の背番号を手にしたメンバー、そして男子マネージャーが集結し、テレビに注視している。超大型テレビには明来対南場実業の試合映像が映し出されている。


「……どうだお前達。これが南場実業を倒した明来の実力だ」


 中島監督は問いかけた。


「あの八城を抑えたボール、チェンジアップか?」


「神崎、本当に一年チームはこのピッチャーを打ち込めたのかよ」


 三年生メンバーが神崎に質問する。


「はい。ですが……その時はこの様なボールは投げていませんでした」


 神崎はハッキリと答えた。


「俺は山神ってショートが気になるね。守備もバッティングも、頭一つ抜けてるぞ」


みね、こいつが皇帝にいたらショートのレギュラー、ヤバかったんじゃねーの?」


 三年生は笑いながら峰に話しかけた。


「ちょっと、やめて下さいよ先輩。俺、実は内心ホッとしているんですから!」


 頭をかきながら、笑顔でハキハキと峰は応える。それを見た三年生は笑っていた。


「それ言ったら峰。お前、明来の一番に足の速さも負けてるんじゃねーのか?」


「ちょーっ、ストップ! 勘弁して下さいよぉ!」


 三年生は峰をいじり、笑っている。当の本人も満更でもないかの様に振る舞っている。


「……俺は四番の氷室を警戒しています。練習試合でも良いバッティングしていましたから」


 太刀川が話を変える様に切り出した。


 部員全員、ハッとした表情になり、また映像に視線を戻した。そして太刀川以外に気が付かれない様に峰は真顔になり、そしてまた笑顔に戻った。その姿を見て太刀川は溜息が出た。


「見たところ、この千河ってピッチャーはメチャクチャコントロールが良い。多分俺よりな」

 

 宮西だった。キャプテンでエースである彼からの発言だけに、全員固唾を飲んだ。


「その上緩急も使える。カウントを作られると厄介だ。バッター陣は初球から振っていけよ」


 メンバー全員、宮西の言葉に対して静かに頷いた。


「一年生とは思えないレベルの選手が数名揃い、この短期間にしてはチームワークも悪くない――だが」


「ここで負ける程度の練習メニューを組んだ覚えはないぞ」


 長島監督はメンバー全員を鼓舞した。


「次の試合――先発は神崎に託す。練習試合同様、奴らをねじ伏せるんだ」


「はい! 精一杯頑張ります!」


 神崎がハキハキと応える。そこにいるメンバーのほとんどが感心した表情をしている中、峰は眉間にシワを寄せていた。だがすぐに笑顔に戻った。


「よし、今日はここまでだ。各々考えて自主練やメンテナンスに入れ!」


「はい!」


 長島監督の言葉に、全員揃って返事をした。


 皇帝学院は一切の油断をせず、明来との試合に備えていた。

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