第五十九話 強者のオーラ
南場実業との試合を終えた明来ナインは、同じ球場で行われている試合を観戦していた。
この試合に勝った方が、明来と戦うチームとなる。
――だが、大方の予想通り、皇帝学院は圧倒的な実力を見せつけていた。
「ストライク! バッターアウト! スリーアウトチェンジ!」
「っしゃあァァ!!!」
神崎の雄叫びがスタンドにまで響き渡る。彼は十番の背番号を背負っている。
三回戦のマウンドを託されたスーパールーキーの一年生は、公式戦初登板とは思えない程の活躍を見せていた。四回を投げて被安打はポテンヒット一本、奪三振は六個も奪っていた。
さらに――。
――パキィン!
打った瞬間わかるホームランだった。太刀川はゆっくりダイヤモンドを一周する。四番に座る彼は今日二本目のホームランを放っていた。
――パキィン!
五番の神崎も先輩に続いた。バックスクリーンに豪快に打ち込まれた打球だけ見ると、誰も彼を一年生とは思わないだろう。このホームランにより、スコアは十二対ゼロとなった。
五回裏、大量リードをしている皇帝の守備。皇帝は控えメンバーの調整も兼ねて、何名か交代させていたが、チームの覇気は保たれたままだ。
むしろ、レギュラーを奪ってやると言わんばかりの気合いを交代した選手達は醸し出している。試合中でもレギュラー争い絶賛稼働中というところだろうか。
神崎の後を託された、背番号十一番のピッチャーもテンポ良く打ち取っている。このピッチャーも球速は百四十キロを超えている。このレベルで控え投手というのが皇帝の恐ろしいところだ。
「ゲームセット!」
相手の攻撃をあっさりと三人で締め、皇帝は五回コールドで勝利を収めていた。以前の一年生チームとは次元が違う、強者のオーラの様なものが感じられる。
「ちっ、一年でベンチ入ってる奴は神崎だけかよ。情けねぇな」
東雲が舌打ちをしている。
言動面には大いに問題があるが、確かに彼の実力なら今の段階でも、皇帝のベンチには入っていただろう。
「東雲から観て、皇帝はどう?」
守が東雲に問いかける。
「あァ? 気安く話しかけるんじゃねーよ」
「瑞穂も気になるって」
守の隣奥の席に座っている瑞穂が大きな瞳で東雲を見つめる。それを見て東雲は少し頬を赤らめた。
「……ちっ、まぁいいや。正直こんなのが皇帝の本気だと思うなよ。エースの
東雲が指差した先には、背番号一を付けた背の低い選手がいた。
「皇帝のキャプテンで、左サイドのエースピッチャー。球速は百三十キロ程ながら多彩な変化球と抜群のコントロールを持ってやがる」
「私も調べたけど、そうみたいだね。まるでヒカルみたい」
「バカ! こんなヘタクソと一緒にしちゃいけねぇ選手だよ」
瑞穂に対してツッコミをする東雲、そして守は身体をプルプル震わせながら、必死に暴言に耐えていた。
「牽制もフィールディングも完璧だ。ムカツクけど……いいピッチャーだ」
東雲がここまで褒めるとは……守は驚いていた。試合を観ただけでは分からない凄さが、宮西にはあるのだろう。
「短い皇帝野球部の期間だったけど、元チームメイトと対戦したかった?」
瑞穂が東雲に問いかける。
「別に……あのチームに特別な感情もネェし。同期のアイツらだって俺が消えて喜んでるだろ」
「そうかな? 少なくとも彼は違うかもよ」
瑞穂が指差した先に神崎の姿があった。こちらに向けて手を挙げている。
「ほら、無視しちゃ可哀想だよ」
「ちっ……」
東雲は渋々と神崎の方に手を挙げ返した。
神崎はニコリと笑い、ベンチに戻っていった。
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