第五十話 舐められメンバーの逆襲
「落ちたぁぁぁ!」
風見の一打は、セカンド四宮の後方へ落ちる、待望のヒットとなった。
「ホームイン!」
三塁ランナー山神が生還し、明来はついに均衡を破る一点を刻み込んだ。
――だが、これで終わりにしない一人の選手が爆走していた。
「バックホーム!」
十文字が大声をあげた。
二塁ランナーの守が三塁を蹴り、迷うことなくホームに突っ込んできた。
飛び込んだ四宮が体制を直し、ボールを取ろうとした瞬間、八城が物凄いスピードでボールを拾い上げた。
「舐めるなァ! 一年坊がァァ!」
八城から矢の様な返球がホームに放たれた。レーザービームのような凄まじい送球が十文字の構えたミットに吸い込まれた。
「暴走だな一年!」
ルール上ギリギリ、最低限の進路だけ開けて十文字は走ってくる守へタッチを試みた。
――だが一瞬のうちに守の姿が消えた。
守はミットを避ける様に横に滑り、その柔らかい身体を上手に曲げてホームベースに手を伸ばした。
十文字も再度ミットをその手に向けた。
――ズサァァ……!
観客席、両ベンチが静まり返る。
静寂の中、全員が判定に注目している。
主審は手を横に伸ばした。
「セ……セーフ!」
球場全体から歓声があがった。
守、奇跡の生還により明来は一気に二点を叩き出した。
奇跡の連続だ――。南場実業から舐められていたメンバーによる逆襲だった。
青山が体を張って繋ぎ、風見がナックルを打ち、守が好走塁を見せつけた。
南場実業、成り上がりバッテリーにとって予想外だったのだろう。集中の糸が切れたのかバックホームの際、風見が二塁へ進塁したことに全く気がついていなかった。
明来ベンチの雰囲気はこの試合最高潮だった。全員が二塁ベースにいるヒーローに称賛の声を送る。
風見はベンチに、そして観客席にいる東雲に向けてガッツポーズをして応えた。彼は未だこの事実が信じられないのか、体がプルプルと震えていた。
この雰囲気で八番の大田が打席に入った。
――ドスッ!
「デッドボール!」
初球、一色の球はすっぽ抜けてしまい、大田の背中にボールが直撃した。
「痛っ……やっと俺も塁に出られたぜ」
背中に手を当てながら大田は一塁へ歩いていった。
次の瞬間、タイムがかかった。
南場実業の監督が、センターの八城を呼ぶ。
「南場実業、選手の交代をお知らせします。ピッチャー代わりまして八城君」
同時に一色と十文字は交代となり、ベンチに下げられた。
六回表 途中
明来 二対ゼロ 南場実業
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