第三十七話 完全アウェー

 ――夏予選、三回戦当日。


 明来ナインは試合球場である南場球場でアップを行なっていた。

 この球場は南場実業のすぐそばにある野球場であり、プロ野球のホームゲームさながら、地元ファンで観客席は埋め尽くされていた。


「三回戦でこの客入り……こりゃすげぇな」


 兵藤が観客席を見回している。

 無理もない。夏予選で満席になるなんて準決勝以上だったり、名門同士の対戦カードくらいだ。

 しかも観客席の八割以上が南場実業のイメージカラー、紫のシャツを着ている。

 つまり明来は完全アウェーの状況である。


「南場実業は昔からのファンが多いとは聞いていたが、ここまでとは……」


「球場がここっていうのも関係あるだろうな。ホームゲームは絶対勝たせてやりたいみたいな」


 不破と兵藤は、敵ながら天晴れといった様子で話している。


 ――そんな話をしているうちに、スタメン発表の時間となった。


一番センター兵藤

二番キャッチャー不破

三番ショート山神

四番サード氷室

五番ピッチャー千河

六番ファースト青山

七番セカンド風見

八番レフト大田

九番ライト松本


 一、二回戦同様のオーダーだった。

 

 主審から集合がかかる。


 両校が整列に向けて走り出す。


「頑張れよ南場ー!」


「一年坊主共に目に物見せてやれ!」


「成り上がりバッテリー! 今日も頼むぜー!」


 拍手と共に飛び交う応援団の声。

 覚悟していたとはいえ、これが一試合続くのは大変だなと明来ナインは感じている。


 南場実業のキャプテン八城と氷室が握手を交わす。


 八城は独特のオーラを纏っていた。

 古豪とはいえ高校野球ファンなら皆んな知っている名門校、部員百人を束ねるチームのキャプテン。自信に満ち溢れた表情をしている。


 整列が終わり、早足で南場実業ナインが守備位置につく。

 そこでも八城はセンターの位置からメンバーに声をかけている。


「一色、後ろには俺たちがいるからな! 思いっきり投げろよ!」


 八城の爽やかな声かけに相槌を打つ、ピッチャーの一色。彼は緩やかなボールで投球練習をこなしていた。


「投球練習でナックルは投げないのか」


「恐らく見せたくないんだろ。打席でご対面するしかないか」


 不破への返事を済ませた兵藤が左打席に向かっていく。


 投球練習、ラスト一球を捕球したキャッチャーの十文字が二塁へ送球して締めた。

 ――だが元々控えキャッチャーということもあり、肩は決して良くない。


「ランナーに出れたら、大チャンスだな」


 ボソッと呟き、兵藤は左打席へ入って行った。


 一回表 試合開始


 明来 ゼロ対ゼロ 南場実業

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