第三十三話 完璧な立ち上がり

 守の完璧な立ち上がりに、応援席も大いに沸いていた。


「キャー! 千河君カッコいいー!」


「キャッチャーもナイスキャッチ……キャー!千河くーん!」


千河ヒカル親衛隊……もとい明来高校チアガール部が黄色い声援をあげている。

 えこひいき感は否めないが、以前より全体を応援する様になっていた。


 そして応援席では東雲が、チア部を目の保養にしつつ戦況を見届けていた。


「ふん、実践初披露にしてはそこそこじゃねーの」

 

 素直に褒めないが、東雲の顔は少し満足げな様子だった。


「ねー、東雲ってよく千河君と練習してるよね? 仲良いんだ?」


 チア部の部長となった清水が東雲の前にヒョコッと顔を出した。


「あぁ!? あんな女顔となんか仲良くねーよ! 同じピッチャーだから仕方なく教えてやってるだけだ!」


「ふーん。だけどさっきの三振、手をグッと握ってなかった?」


 清水がニヤニヤしながら東雲の右手を指さした。


「な……これは握力トレーニングだ! ふざけた事言ってんじゃねーよ!」


「はぁ……。東雲って、見た目は悪くないんだから、もー少し爽やかになればモテると思うのに」


 東雲は赤面した。

 それはもう真っ赤にしていた。


「し、しらねーよ! 別に俺モテたくねーし? 別に困ってねーし?」


「はいはいそうだね、チアばっか見てる東雲クン。熱中症には気をつけなよー」


 清水は新しいスポドリを東雲の横に置いて、持ち場に戻っていった。


「別に嬉しくねーし、顔が火照ってるのも暑いだけだし……」

 

 東雲は独り言を呟きながら、貰ったスポドリを口にした。


 グラウンドに視線を変えると、ちょうど鎌瀬の三番打者が空振り三振に倒れていたところだった。


 なんと守の立ち上がり、三者連続三振という完璧な内容となっていた。


「まぁまぁだな。チェンジアップ、まだ高けーよ」

 

 口調は厳しいが、東雲の顔は少し笑顔になっていた。


 一回表 終了

 明来 ゼロ対ゼロ 鎌瀬

 

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