第三十一話 明来野球部 最バカ対決
――期末試験当日。
明来野球部は早朝勉強会の締めに、円陣を組んでいた。
「いいかテメーら、俺様は絶対に赤点回避する。足引っ張るんじゃねーぞ」
なぜか赤点有力者である東雲が円陣の中心で鼓舞している。
それもそのはず。ここ数日、彼は恐ろしいペースで勉強していた。
元々が酷い成績というのもあったが、問題集の回答率がグングン上がっていた。
――全ては瑞穂とのパフェデートのため、彼は人生で最も勉強をしていたのであった。
「赤点どころか、仮に平均点超えたら特別ボーナスとかでねーかな……へへへ」
煩悩だだ漏れの東雲を冷ややかな目で見つめる守。
彼女にも負けられない理由がある。
守自身としても自分で言った手前、野球部最バカにはなりたくない。
ましてやピッチャーとしてライバル視している東雲には何においても遅れはとりたくないと守は考えている。
「拙者は……! 必ず……! ひよこちゃんを取り戻すピヨー!」
「いけるでござるよ山神殿! ひよこタソはもう目の前でござるぅぅぅ!」
山神と松本は相変わらず高まっていた。山神も先生に没収された【ライブライブ!】のブルーレイ・ディスクを取り戻す為、ここ数日死ぬ気で勉強に向き合っていた。
彼の場合はアニメ勉強方が見事にハマり、松本が抜粋したアニメを元に各科目の基礎知識を身につけた為、恐ろしいペースで勉強が捗っていた。
全ては愛すべき推しの為、その為なら空だって飛べると言うのが彼のモットーである。
赤点候補三人はそれぞれ目標、野望、煩悩などなど、様々な想いを抱いて試験に臨もうとしている。
そんなこんなで、期末試験は開始された!
――見直しも終わり、残り時間を15分ほど残した瑞穂は、赤点候補二人の様子をこっそり伺った。
まず守の方を見た。
彼女は頭を抱えながらもペンを少しずつ動かしているようだった。時折鉛筆を転がしているのは気のせいだと信じたい。
次に東雲の方を見た。
頭をかきながらもペンは動いている。ただ彼も時折鉛筆を転がしている様な音が聞こえる。こちらも気のせいだと信じたい。
瑞穂は再度問題を見直した。
確かに選択問題はあるが、15個位の候補から選んで穴埋めするタイプであり、6面の運任せで解ける問題ではない。
『あの二人、ヤバイかもしれない』
瑞穂は思わず頭の中で呟いてしまった。
――テスト返却日当日。
守、瑞穂、東雲の三人が部室の前に到着した。
成績発表は部室でやると決めていた為である。
ドアを開けると大音量が響き渡る。
「うおおおおおお! ひよこちゃん! うわあああああ!」
部室では山神と松本が大音量で【ライブライブ!】の映像を流していた。
いつの間にか貼られている防音シートの効果か、部室のドアが開くまで全く外に響かない。
「ウルセーキモヲタ共! 音を下げろ!」
東雲は耳を塞ぎながら彼らに訴えかけた。
「これはA組御一行殿。失礼あそばせ」
山神はニコニコしながらボリュームを下げた。
「てかテメェ、アニメ観てるっことはまさか……」
「東雲氏、拙者はひよこちゃんを救うことができたでござる」
「それどころか山神殿は平均点を大幅に超えてたでござる! 流石ですぞ山神殿!」
守、東雲は唖然とした。
赤点候補だった山神が一気に遠い存在になっていくのを感じた。ひよこちゃんマジすげぇ。
「さ、二人の結果を見せてね」
二人はそれぞれ瑞穂にテスト用紙を渡した。彼女のジャッジで勝敗は決まる。
「すごい、二人とも赤点はないね!」
「「鉛筆転がしのおかげ」」
二人がハモった。そして顔を見合わせた。
「はぁー!? テメーなに俺様の必殺奥義パクってんだよオイ!」
「何言ってるんだよ! あれは僕が先に思いついて作ってたのを東雲が見てパクったんじゃないか!」
喧嘩のレベル自体は低いが、確かに二人とも選択問題の正答率が高い。
なぜか六種類以上の選択肢がある問題でも、効率的に稼いでいた。
「合計点は……あれ?」
瑞穂が再度計算し、後から来た不破にも再度計算をしてもらっている。
「すごい……二人とも点数一緒だ!」
「「はぁー!?」」
また二人してハモった。
ある意味息ピッタリな動きだったので、瑞穂と不破は笑ってしまった。
「み、瑞穂。そしたら俺とのパフェはどうなっちまうんだ……」
東雲は非常に焦った声で確認を取った。
「うーん……ちょっと甘いけど、東雲君もヒカルも頑張ったから二人にお祝いしてあげるね」
「え、こいつも……!?」
「だって本当はヒカルに勝たないといけなかったんだから、特別サービスだよ」
東雲はグヌヌとしながら了承した。
一方で守はただ一点だけを非常に気にしていた。
「この場合……最バカ争いはどうなるの? 気になって夜しか眠れないよ」
「同率首位の最バカコンビだね。悔しかったら次回のテストも頑張ってね!」
守のボケをスルーして回答する瑞穂。
守はダブルの理由でガックリと肩を落としていた。
何はともあれ赤点を無事回避できた明来ナインは夏予選に挑むのであった。
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