第二十九話 大会前の試練ってなんぞ?

 ――六月下旬。


 キャプテンに任命された氷室と付き添いで瑞穂、守の三人は夏大の組合せ抽選会に参加していた。


 全国高等学校野球選手権大会、東東京大会。東東京だけで参加校は約百三十校の激戦ブロックで、優勝までに8連勝はかかる計算だ。


 この抽選会は注目イベントの一つで、特に強豪チーム同士の対決がいつ行われるか等が注目される。


 守たちの様な新規参入チームも一応注目されるが、各チームからすれば是非一回戦で当たりたいと思われるのが通例だ。

 特に明来のように全員一年生のチームだと舐められてしまうのだ。

 現に会場を歩いているだけで様々な話し声が聞こえてくる。


「あ……こいつら明来じゃね? 今年から大会に出る学校だよな」


「なんか練習試合だとマグレが起きてるみたいだけど所詮一年生集団だろ?」


「あの底其処に勝ったとかデマが流れてるよな」


「てか明来のマネ、めっちゃ可愛くね?」


「うおっマジ可愛い……絡みてぇ」


「お……俺はあっちの美少年に女装させたい……ヘヘッ」


 ……なんか半分くらいはベクトルの違う話題になっている点は無視しておこう。

 

 そんなこんなで組合せ抽選会が開始された。

 各学校が呼ばれ、くじを引いていく。

 次はいよいよ明来高校の番だ。


 氷室がくじを引いた。

 

「明来高等学校 五十番です」


 後ろの方から歓声が沸いた。どうやら早い段階で明来と当たるチームみたいだ。


「くそっ舐めやがって、あの学校……!」


「守、試合まで我慢だよ」


 守がカリカリしているところを瑞穂が抑制させていた。


「革命を起こすんでしょ?」


「瑞穂……ごめん。試合で見返してみせるよ」


 なんとか落ち着いた守は息を吐いた。


 だが明来のブロックは中々に激戦だった。


 4回戦で当たるシード校には、あの皇帝学院高等学校が待ち構えている。

 3回戦で当たる可能性がある南場実業なんばじつぎょうも古豪として有名だ。

 今年はここ最近の中で特に仕上がりが良いとの噂もある。


「いずれ倒すんだ。俺たちならやれるぞ」


 席に戻ってきた氷室が勇気づけた。

 守と瑞穂は彼の顔を見て、コクリと頷いた。


 ――学校に戻り、全員に組合せの報告をした。各々感想はあったが、戦う気持ちは全員一緒だった。


「中々面白いブロックを引きましたね。ただ貴方たちには大会前に試練があることを忘れてませんか?」


 上杉がニコニコしながらメンバーに問いかけた。


 試練……大会より前にそんなものあったか? 守には全く想像がつかなかった。


「ああああああ!」


 山神が今まで聞いたことない悲鳴を上げた。どうした、ヲタエネルギーでも切れたのか?


「七月上旬……死の期間でござるな……」


 七月上旬……学期末……学期末!?

 

「ああああああ!」


 守も山神同様、悲鳴を上げた。


「期末試験……期末試験だああああ!」


 守は叫びながら、周りの反応をチラ見した。だが同様に動揺しているのは山神と東雲だけだった。


「ヒカル……最近授業で先生がよく言ってるよね。ここ試験に出すからーとか」


 瑞穂の言葉に、他のメンバーも頷く。

 試験を意識してなかったのは私たち三人だけかよ……と守は自覚せざるを得なかった。


「ちなみに赤点科目は補習と再テストがあります。もちろんクリアするまで一切練習させませんよ」


 上杉の警告におバカ三人衆はビクッと反応した。これはマジなやつだ。


 こうして守、山神、東雲にとって最初の強敵、期末試験が立ちはだかってきたのである。

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