第二十五話 転校生

 六月上旬――すっかり気温も上がり、制服も夏服に変わる時期。

 ただの水道水がこれ以上なく美味しく感じる季節がやってきた。


 明来野球部は練習試合も重ね、少しずつだが確実にレベルアップをしている。

 最近だと青山の野球人生初ヒットに、ナインは大いに盛り上がっていた。


 スパーン!


「ナイスボールだ氷室」


 不破が氷室に返球する。


 氷室は練習試合を重ねごとに成長していた。

 元々非常に肩が強く、ついに先日は球速百三十キロを超えてきた。

 ストライクは見込める程度のコントロールも身につけていた。


 ――その一方では守が上杉に向かってボールを投げている。


「千河君、抜け球が目立ちますね」


「はい、チェンジアップもカーブも安定しません」


 守は新球種、スピードの遅い変化球取得を目指していた。

 今の球速を少しでも速く見せるための工夫だった。

 しかし守には球を抜く様な感覚は持ち合わせておらず、大苦戦していた。


「千河君、今日はこの位にしましょう。これ以上投げて変な癖がついたら大変です」


「……はい」


 守は上杉の言うことに従い、使用したブルペンを綺麗に整えた。


 だが、守は内心とても焦っていた。

 皇帝との試合は1日たりとも忘れたことがない。

 コントロールと芯を外すピッチングだけでは限界を感じていた。


 練習後、上杉がメンバー全員を集合させた。


「突然ですが、明日転校生が入学します。前の学校でも野球部に入っていたそうなので、もしかしたら仲間になるかもしれませんね」


 メンバーみんなが突然の話にざわついていた。

 新設校に六月から転校……珍しい話に驚いている様子だった。


「良い人だといいね、ヒカル」


「うん、楽しみだね」


 瑞穂と守も転校生を楽しみにしていた。


 次の日、守たちの教室がざわついている。


 何やら噂の転校生がこのクラスに来るという噂が広がっているからだ。


「転校生って女子!? 女子か!?」


「イケメンだったらいいなぁ……」


 クラスメイト達が来たる転校生に期待を寄せている。

 ハードル爆上げされてドンマイと守は思っていた。


「転校生、こっちでも野球やるのかな?」


「どうだろう……とりあえず休み時間にでも勧誘しようよ。ヒカル」


 一つ前の席の瑞穂と話をしていると担任の先生が入ってきた。


「みんな席につけ。噂が流れているかもしれないが、このクラスに今日から転校生が入るぞ」


 ざわざわ……


 やはりそうかと言わんばかりにクラスメイトがざわついている。


「よし、じゃあ紹介するぞ――入ってこい」


 転校生が守たちの教室に入ってきた。


「えっ!?」


 守と瑞穂は思わず声が出てしまった。


「皇帝学院高等学校から転校してきた、東雲凌牙君だ。みんな、仲良くしてやってくれ」


「ええええええ!!」


 守と瑞穂はもう一度大声を出してしまった。

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