　コツンッ！

　兵藤はセーフティバントを試みた。自慢の足で出塁を狙っているのだろう。ボールは三塁方向へ転がっている。

「どけやコラ！」

　東雲はサードの選手にぶつかりながら、無理やり捕球した。

　だが、無理な体勢から投げたボールはファースト横に逸れてしまった。

　ボールが転々としている間に、兵藤は二塁に到達した。明来高校はツーアウトながら、一打同点のチャンスが舞い降りた。

「東雲、あれは俺のボールだろ！」

「はぁ？　テメーが遅せぇから俺が処理したんだろ！」

「なんだと！？」

　サードの選手と東雲が言い争いが始まり、キャッチャーの若林が落ち着かせようとしている。

　なんにせよ、これはチャンスだ。

　ベンチ前でキャッチボールをしていた守は打席に目を向けた。

　次のバッターは、前の打席でヒットを放った山神だ。彼ならまた一仕事してくれるかもしれない。守は期待感を込めて戦況を見つめていた。

　キィン！

　守の予感は的中した。

　東雲自慢のストレートを叩いた山神の打球は、ライト前に運んでいた。これで同点だ！

　――だが次の瞬間、信じられないことが起きた。

　兵藤が自慢の脚を活かし、ホームまで走ってきていたが、ライト神崎からレーザービームの様な送球が飛んできた。

　ホームの端、ちょうど兵藤の滑り込む位置に向かってくる、完璧な送球だった。

　――アウトだ。キャッチャー若林のミットは捕球後一ミリも動くことなく、兵藤のスパイクにタッチしていた。

　明来ベンチは全員唖然としている様子だった。兵藤のスタートは完璧だった。普通のライトなら余裕でセーフだったはずだ。

　ただそれ以上に、神崎のバックホームが素晴らしかったのだ。

　明来ナインは今まで東雲を最大マークしていたが、皇帝一番のキープレーヤーは神崎だったことを痛感していた。

　皇帝学院の選手層は恐ろしい。……言葉を失いながら、明来ナインは守備位置に向かっていった。

　守はマウンドに向かいながら、皇帝ベンチを眺めた。監督から激励される神崎、一方で太刀川から怒られる東雲。

　彼らをどう攻略すればいいのか。

　明来ナインは、活路を見出せずにいた。

　三回表　終了

　明来　ゼロ対一　皇帝

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