第四話 人生はギャンブルだが、ギャンブルは人生ではない

 守たちが部室前で先生に怒られてる同時刻。


 校舎隅のとある教室――普段クラスの教室として使用されていないこの部屋は、密会をするにはもってこいの場所として度々生徒が利用している。


「エースのフォー・オブ・ア・カインド。また俺の勝ちだな、大田おおた


 兵藤蓮ひょうどう れんは手札のカードを公開した。

 机にはチップの代わりとして使っている、ゲーセンメダルが兵藤の前に山積みとなっている。


「兵藤! も、もう一勝負だ!」


 大田は友達の抑制をさえぎりながら、カードをシャッフルした。


「おいおい、大田。もう諦めろよ。軽く十万は負けてるぜ、お前」


 呆れ顔で兵藤はあおる。


「うるせぇ、次勝てばチャラだろ」


 大田は乱暴にカードを配った。


「負けたら二十万だけどな」

 

 兵藤は笑いながらカードを確認する。


 ――目に見えた結果だった。

 大田は絶望の表情を浮かべている。始めから大田が二十万もの大金、払えるわけがないのは兵藤自身も分かっていた。


「大田、二十万なんて金いらねーから、代わりに俺の言う事聞いてくれねぇ?」


 兵藤が大田の肩をポンポン叩いた。

 大田は今にも泣きそうな顔で兵藤を睨みつけた。


「な、なんだ。俺に何させようって言うんだ」


「一年間、助っ人でいいから野球部に入れ」


「いや、俺野球なんてやったことねぇし」


 大田は両手を振って否定の仕草をした。


「無理なら今日中に二十万払え。そんな覚悟でギャンブルしてんじゃねーよ」


 兵藤はカバンを机の上に叩きつけた。

 そしてカバンの中から、大量の札束を取り出した。大田とその友達は目を疑った。


「特別サービスだ。これで明日までに、お前の野球道具を用意しろ。悪くない話だろ?」


 兵藤は札束から五万円を抜き取り、太田の前に差し出した。

 大田は目に涙を浮かべ、兵藤の顔色を伺いながら、ゆっくりお金に手を伸ばした。


「言っておくが逃げられると思うなよ? お前と俺は、経験してる修羅場の数がちげぇんだよ」

 

 兵藤は鋭い眼差しを大田に浴びせた。

 大田は震えながら頷き、五万円を財布にしまった。


 兵藤はスマホを取り出し野球部ラインに向けて入部者が増えた事を報告した。

 すぐ返事が来た。――千河ヒカルからだ。なんだか心なしか女子みたいな絵文字使うな……と兵藤は感じた。


「よかったな大田。野球部の皆がお前を待ち望んでるぜ?」


 兵藤は、それはもう悪い笑みを浮かべながら、太田をじっと見つめた。

 大田は苦笑いを返し、そして後悔した。ゲーム、ギャンブルには自信があったようだが、どうやら相手が悪かったようだ。


「あと一人か」


 兵藤はボソッと呟いた。

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