第三話 人数不足だからチャラ男とヲタクを誘ってみたぞい


 練習試合まで残り二日となった。人数はいまだゼロ。


 守たちは毎日各教室を回っているが、野球部に興味を持ってくれる人は、誰も見つかっていなかった。

 当然だ。入学して一週間ほど、今は各部の体験入部期間で、本命があればそこに流れている。


「今日も一般コース回ったけど全滅だった。不破はどうだった?」


 守は不破盾ふわ じゅんに話しかけた。


「俺も進学コースのクラスメイトに聞いたけど、勉強が忙しくて野球をする時間はないってさ。それ以上の交渉は迷惑になると思って諦めたよ」


 不破は溜息をつき、黒縁メガネをクイッと上げた。


 二人が作戦会議をしている時、守の後ろから大きな声が聞こえた。


「ヒカル! 不破君! 新しい部員見つけたよー!」


 二人は驚きながら、声の方へ視線を移した。

 瑞穂が、長身のチャラそうな男の手を握って、こちらへ小走りで向かってきていた。


「ウェーイ、チョリっす! 俺、青山真斗あおやま まさとね。気軽に真斗ってちょーだい!」


 青山がウインクをしながら挨拶した。


「うっわぁ……」


 守は引いた。ドン引きした。

 守の最も嫌いなタイプだった。金髪のロン毛でキモいし、話し方もムカつく。甘ったるい香水の香りもウザい。兎に角、全部が最悪の印象だった。


「俺は不破、よろしく。真斗君はどのポジションやってるの?」


 不破は爽やかに挨拶した。


「不破っちー、真斗でいいって。フレンドリーに行こうぜ? 野球はやったことねーけど体育のソフトではピッチャーやってたから大丈夫っしょ」


 青山は左手でボールを投げるそぶりを見せていた。

 守はもうブチギレ寸前だった。なぜ、こうも舐めた奴を瑞穂は誘ったのだろうか。


「守、今は人を選んでる場合じゃないでしょ?」


 瑞穂がヒソヒソと話しかけてきた。

 そうだ、この状況ではどんな奴だろうと助かる。守は息を吐き、自分にそう言い聞かせた。


「じゃあ真斗、部室案内するから俺たちについて来て」


 不破は歩き始めた。守たちも一緒に後をついていった。


 歩きながら青山の話を聞くと、野球部はモテそうだの、チア部を狙ってるだの、暇だから等、守の神経をすり減らす話ばかりしていた。


 ……守が自分自身と戦っているうちに部室の前に着いた。不破がドアを開けると、大爆音が流れた。


「うおおおおお! 松本まつもと氏ぃぃぃ! 感じるでござるか、この神PVが放つエネルギーを!」


 部室の中で、山神龍也やまがみ りゅうやがテンションを上げていた。

 山神は、彼の友人と思わしき太った男と一緒にヲタ芸を楽しんでいた。二人とも物凄い機敏な動きだ。そしていつの間にか設置されているテレビには、アニメアイドルのライブ映像が映し出されれている。


「ありがとう、ライブライブ。ありがとう、ひよこちゃん……!」

 

 山神は涙を流していた。全てをやり切った男の顔だ。正直目にいってヤバイ。


「あっれー? 野球部ってこんなイケてないヲタク君たちしかいないのー? まぁその分、俺が目立てるからいーんだけど」


 青山の失礼発言が飛び出したが、畜生、この状況じゃ勘違いされて当然だと守は落胆した。


「あ、これは不破氏御一行殿。拙者のソウルメイト、松本氏がしばらくの期間、助太刀してくれるでござる」


 山神は全員に松本を紹介した。

 

「松本です。よろしく、デュフフ」


 松本は謎の笑い声を上げた。なにが面白いのか、わからん。


「松本っちね、チョリース! 俺真斗ね、よろー!」


 青山がウインクする。


 ……何はともあれ、メンバーが二人増えた。しかも意外なルートから。いい加減テレビのボリュームを落として欲しいと守は思った。


 これで現在七人、あと二人でとりあえず試合ができる。守は少し目の前が明るくなってきたのを感じた。


 ――そして通りかかった生徒指導の先生に、ボリュームを指摘された。山神と松本は涙を流しながら抗議するも、ブルーレイ・ディスクは取り上げられてしまった。

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