第17話 僕の成すべきこと

目を開けると、僕は見覚えのある見慣れたベッドの上に横たわっていた。

 何度か瞼を瞬かせて意識を覚醒させ、さして重くない身体をゆっくりと持ち上げる。

 振り返れば窓からは明るい日光が差し込んでおり、風も強く吹き付け窓ガラスがガタガタと揺れている。

 そこで、僕は早くも確信を抱いた。確信を得た。確固たる現実を認識したのだ。

 それは、結論から先に言えば、ここが『裏側の世界』ではなく現実世界であるということ。僕が借りる、『濃三荘』の自室の中であるということ。罪の責に苛まれながら目を閉じたあの日以来実に久しぶりの現実世界に、僕の意識はまた戻ってきたのだ。

 ふと視界にカレンダーが入り、好機とばかりに凝視する。

 日にちからは、あの日から1日経ったということが分かる。ついでに見た置時計からは今が12時過ぎたということも。時間の経過は現実世界も『裏側の世界』も変わらないらしい。そんな今更ながら知った事実に安堵の息を溢しながら、僕はベッドから立った。

 洗面所に向かうとぬるま湯で軽く顔を洗い髪を整える。あまり時間をかけたくないがためにかなり粗雑な整え方になりながらも、どうにか寝癖を直すことが出来た。

 そうして再び部屋に戻り適当に服装を見繕うと、着る間も惜しんで鍵も閉めずに部屋を飛び出した。

 目指すはもちろん、美夜の入院する病院。美夜の現状をどうしても確かめたいとの思い故である。

 歩道を走り呼吸をする度、喉の奥底から舌の先端まで、口の中には苦く渋い味が広がっていく。息を吸えど息を吐けど、その苦さは失くなってくれない。

 けれど、それもそうだと思う。なぜなら、苦さの正体は今も残る自分自身への反吐を吐きそうなほどの嫌悪感なのだから。

 たった数分前の出来事であれ、されどそれはどう否定しても数分前の出来事には違いない。数分しか経っていないのに、そうそう忘れられるはずがないだろう。むしろ今でも忘れたいと足掻くけれども、決して忘れることが出来ないのだ。あのときの美夜の顔を。美夜の酷く悲しむ顔を……。

 そして、風を受けて目を閉じるとその度に瞼の裏に浮かび、その度に自責の念に駆られるのだ。

 僕は拭いきれない後悔と美夜へのとてつもない罪悪感を胸に、もう美夜に会わせる顔などないと自覚していながら、それでも美夜の姿を見たいと意地汚く駆けるのだった。




 病院に到着し、階段を駆け上がる。エレベーターを待っている時間さえ惜しいのだ。

 今にして思うけれど、美夜が事故に遭った日に病室の番号を聞いておいて正解だった。と言っても、両親の会話を偶然聞いていただけなのだけれど。まあ、あの頃はまだ気持ちの整理が今よりも着いていなかったことを考えれば、我ながら善処したと言うべきだろう。

 ただ最終的に言えば面会謝絶にでもなっていたら美夜には会えない訳だから、結局のところ部屋まで行ってからしか成功か失敗かは分からない。

受付のおばさんに聞いても答えてもらえなかったことから想像するに、もしかしたら本当に面会謝絶かもしれなかった。

 とにもかくにも今は美夜が入院している病室に行くしかなく、自然走る速度も増していく。

 そうして走っているのを誰からも注意されなかったのが幸いし、すぐにでも美夜の病室の前まで到達出来た。

 念を入れて念入りに番号を確認し、間違いないと確信する。いや確信もなにも、番号は『308』と3桁全て合致している訳で、これで間違いなはずがない。それに、中からは聞いたことのある声も聞こえてくる。幸運にも面会謝絶ではなかったのだ。

「よしッ!」

 そう小さくガッツポーズをして興奮冷めやらぬまま扉を開こうとしたところで、僕は自分の動悸が激しくなっていることに気が付いた。

 冷静に考えれば直前に階段を2階分全力ダッシュしてきた訳で、その運動量はバリバリの運動部並みである。冬耶だったら余裕かもしれないけれど、ここ1年近くスポーツとは無縁だった僕には辛いものがあるのだ。

 軽く上気する肌と荒い息を鎮めようと大きく深呼吸をし、さらにもう一度止めに深呼吸をする。そうして呼吸も動悸も暑さも整ったのを確認して、僕は息を呑んでゆっくりと扉を開いた。

「ーーという訳で緊急手術から4日が経ちましたが、経過はいたって順調です。むしろ外傷に関しては治りが非常に早く後遺症も見られないため今にでも退院出来るレベルにまで来ています」

「そ、そうですか。ありがとうございます。ありがとうございます……う、うぅぅ……ううぅぅぅ……」

「……ホントだな。……先生、本当にありがとうございました。美夜を救っていただいて……」

 先にそっと頭だけ覗き込ませ、病室内の状況を一通り理解してからまたまたゆっくりと室内に入っていく。

 特にやましい気持ちがあるという訳ではないけれど、曲がりなりにも美夜の事故には僕の責任も少なからずある訳で申し訳なさや遠慮がちになる気持ちは確かにあったのだ。そう、決してやましいからの行動ではないからね!

 まあそこはどうでも良く、どうやらベッドを挟んで美夜の両親と病院の先生が美夜の容態について話しているようだ。見遣れば美夜は今も静かに眠り続けていて、見た感じ目を覚ましそうな気配が全くない。きっと今までずっと意識を失ったままなのだ。それは、『裏側の世界』で出会った美夜の存在からも裏付けられる。ずっと、ずっと、美夜の時間はあの日に止まったままなのだ。

 僕は例の如くそっと扉を閉めると、美夜の両親の邪魔にならないようにと静かに端の方に回る。ただ幸運なのか生憎なのか、美夜の両親にも病院の先生にも気付かれてはいないらしかった。

「じゃあ先生、もう美夜は目を覚ますんですか……?」

 涙をその目に浮かべながら、美夜のお母さんが病院の先生に問いかける。

 その声は震えていて、余程心配していたんだということが僕にも伝わってきた。それに隣を見れば美夜のお父さんもお母さんの肩にそっと手を遣って頷きながら強い目を向けている。

 美夜はああ言っていたけれど、僕の目にはどこにでもいる以上の優しいお母さんとお父さんの姿に映った。

「ーーそのことなんですけれど……」

 美夜の両親の祈るような視線を受けて、最初の説明以来ずっと黙っていた先生がようやく意を決したように口を開いた。

 もちろん、美夜の両親が望んでいるのはイエスの一言だろう。それ以外には考えられない。斯く言う僕だってその言葉のみを待って先生の口の動きを追ってしまう。

 しかし、そんな僕達の期待の目に反して、先生は表情を曇らせた。床に目線を遣り、両手を膝の上で強く握り、肩が軽く上下するのが見える。まるで、重大な何かを告げることを覚悟したかのような。

 ふと悪い予感が僕の身体中を駆け巡り、背中を一筋の冷たいものが流れ落ちた。

「……お嬢さん、美夜さんの意識なんですが……この先一生戻らないか最悪の場合明日にでも死に至ってしまう可能性があります……」

「……へ?」

 先生の口から放たれたのは、僕も美夜の両親も、そしてきっと先生でさえも望んでいなかった言葉。望んでいようはずもなかった言葉。完全に予想だにしなかった言葉だった。

 僕も美夜の両親も、その言葉の意味に理解が追い付かず固まってしまう。いや、本当は理解したのだ。けれどその理解したことを信じられず、本能的に理解とは真逆のものに従ってしまっているのだ。

「……あの、先生……。今、なんと……?」

 美夜のお父さんが困惑した表情で聞き直す。

 先生は苦しそうな顔をして拳を握る力を強める。そうして美夜のお父さんに視線を合わせると、さっきよりも丁寧に、言葉一語一語をはっきりと答えた。

「……もう一度言います。美夜さんの意識はおそらく一生戻らないか、もしくは明日にでも心臓停止になってしまうと思われます。いや、後者の可能性の方が圧倒的に高いでしょう。このまま行けば80%以上の確率で、美夜さんは明日を待たずにして息を引き取られることになるでしょう……」

「……そ、んな……」

「……ど、どういうことなんですか!? 先生さっき経過は順調だと言われましたよね!?」

 絶句する美夜のお父さんの横で、美夜のお母さんが飛び付くようにして先生に詰め寄る。先生の胸ぐらを掴まんばかりにまで距離を縮めて、訴えるように訊ねるのだ。

 先生はそれに何の抵抗もせずただ悔いるような顔で頷くだけ。きっと先生も先生で責任を感じているのだ。

「……はい。実際のところ、先ほども言いました通り美夜さんの外傷の回復具合はとても良いです。それに脳内や臓器内などにも内傷と見られるものもやはりありません。医学的見地から言って美夜さんは充分回復しているんです……」

「じゃあどうしてッ!」

「それは……」

 先生は一度口を閉じると、静かに目を伏せた。

「……美夜さんの意識が戻らないのは外傷や内傷のせいではありません。このことは判明しています。けれど、分からないんです。美夜さんの意識が戻らない理由が、私達には全く以て不明なんです。……手は尽くしました。可能な限り手は尽くしたんです。けれど、私達にはどうすることも出来ませんでした。当院の医療技術では、到底解明することが出来ませんでした。おそらく世界最高峰の技術を駆使したとしても結果は変わらないでしょう。娘さんは原因不明のまま事故当日から眠り続けているのです」

「そ、そんな……こと……」

 美夜のお母さんの目からは涙がポロポロと流れ落ち、あまりにショックだったのであろう膝から崩れ落ちそうになる。

 それを隣から何とか美夜のお父さんが支え、お母さんは信じられないという顔をするお父さんの胸の中で、震えながら泣いてしまった。

「……理解できないという気持ちも痛いほど分かります。私も今でも何かの間違いだろうと思います。けれど、この事実は、間違いではないんです。歴とした、間違いようのない事実なんです」

「先生……、それじゃあ美夜の命がもうないというのは……」

「……はい。もしこのまま意識が戻らない状態が続いたとしても、通常であれば命に別状はありません。意識が戻らずとも生存することは出来ます。けれど美夜さんの場合は普通の意識不明とは全く異なり、常に心臓に正体不明の強大な負荷がかけられた状態になっているのです。ですから美夜さんの心臓は美夜さんが事故に遭って意識を失って以来4日間、本来心臓が受けるはずのない負荷を与えられ続けてきたと考えられます。つまり今の美夜さんの心臓は、今に止まってしまってもおかしくない状態なのです。……私達の見積もりでは、今夜が山になると思われます。今夜病状に変化が起きなければ、美夜さんの心臓は明日の朝にでも完全に停止してしまうでしょう……。本当に、申し訳ありませんでした」

 そう言って先生は頭を下げる。

 見遣れば先生の肩も、美夜のお母さんと同じように震えていた。震えた背中を天井に見せたまま、先生は頭を下げ続ける。誰もすぐに止める者はいない。

 もちろん先生が悪い訳ではない。けれど、この場にいる誰もが、誰が悪く何が悪いのか分からず、誰に責任があるのかも分からないが故に、先生の謝罪を受け入れるしかないのだ。美夜の両親も、先生でさえも。

 そうしてそれが何分間くらい続いただろうか。

 どうにか涙が収まり平静さを取り戻せつつあるお母さんに優しい眼差しを向けると、美夜のお父さんがついに先生に声をかけた。

「……頭を上げてください先生。誰もあなたのせいだとは思っていません。先生はベストを尽くしてくださった。それだけで僕達はありがたい気持ちです。今日まで美夜を診ていただいてありがとうございました」

 その言葉に合わせて、鼻を啜りまだ涙が瞳に浮かぶ美夜のお母さんも一緒に、涙を拭いながら感謝の頭を下げた。

 ーーその間僕は何をしていただろうか。美夜の両親と病院の先生が会話を交わしている中、僕は何をしていただろうか。

 僕は、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。

 それは、現実世界の美夜の差し迫った非現実的な現実を知り、そしてその原因であろうことを偶然にしろ必然にしろ察してしまったからである。

 そう、美夜が目を覚まさない原因。美夜の身体を蝕む正体不明の病状の正体。

 それは、『裏側の世界』の美夜の存在ではないのか。正確に言えば、美夜の病状は『裏側の世界』において美夜が望みをいつまで経っても果たせていないことに起因するのではないか。

 つまり、美夜の内に抱えた願望が叶えられないが故に、美夜は意識を現実世界に留められずに意識を失っているのではないか、ということだ。

 ただ、不明な点もある。

 それはその二つの因果関係。どちらが原因で、どちらが結果かということだ。

 エムの話によれば『裏側の世界』に意識が移るのは現実世界で意識を失っている状態つまり寝ているか意識不明に陥っているかどちらかの状態にあるときであり、その場合には意識を失うことが原因で『裏側の世界』に意識が移ることが結果と考えられる。

 しかし、美夜に起きている現象はその全く逆。『裏側の世界』に意識があることに起因して美夜は現実世界で意識を取り戻せないでいる。つまり『裏側の世界』に意識があることが原因で意識を失っていることが結果になっていると考えられる。

 この矛盾点はどういうことなのだろうか。

 僕は考えるけれども、しかしてやはり答えはそう容易く出るものではない。

 そもそもこの二つ、美夜の意識が不可解な形で戻らないことと『裏側の世界』の美夜の存在が繋がっているということ自体僕の推測であり、今の段階では真実味には乏しいのは明白だ。他の人間と同じようにもしくはエムの言うようにただ現実世界の美夜に意識がないがために主導権が移行して活動しているだけかもしれない。いや、その可能性の方がはるかに高いであろう。何せ管理人とまで呼ばれるエムが言っていたことなのだから。

 けれど、それでは説明のつかない事態が起きているのも事実で、しかもその事態が早急至急に解決が望まれる、解決しなければならないものだと来た。ならば、理論になど頼ってはいられないし、手段にも頼っていられない。望む結果を得るためならば、過程など度外視しなければいけない逼迫した問題に僕は直面しているのだ。

 不意に小一時間ほど前の情景が思い出される。

 僕は美夜の願いを叶えるためのお出かけの中で、美夜を裏切った。素直に気持ちを伝えようとした美夜を、紳士にも真摯にもなれずに外道の如く切り捨てた。

 あのときの美夜の言葉、美夜の顔。美夜の仕草に美夜の雰囲気。そして、美夜の気持ち。

 その全てを僕は自らの身勝手さ愚かさ弱さが故に放置し、置き去りにし、そこから逃げ去ったのだ。卑怯にも、卑屈にも、臆病にも。

 だから今でも口の中には酷く苦い何かが広がり、胃の中まで侵食していく。正直に言って吐きそうなくらいに気持ち悪くなる。

 今更頑張ったところで美夜の助けになんてならない。裏切ったくせに何善人ぶろうとしてるんだ。お前がしようとしているのは偽善だ。自己満足だ。自己欺瞞だ。お前は結局美夜のために頑張った自分を得ることで自分を守りたいだけだ。お前がしようとしているのは美夜のための行動じゃく、所詮自分のためだけの行動だ。

 そう、心の中の僕が言い募る。批判する。非難する。主張する。

 もう一人の僕が、僕の全てを見透かしたように嘲笑っているのだ。

 ……そうさ。確かに僕は偽善野郎だ。欺瞞野郎だ。自己満野郎だ。これまでの行動だって、純粋に美夜のためかと言われればきっと違った。

 僕は美夜のいない世界に生きるのが怖く、美夜の気持ちに答えられなかった自分が怖く、その恐怖と後悔に震え苛まれるのが堪えられなかっただけなのだ。

 美夜と再会することで自分自身を安心させ、その恐怖と後悔から解放してやりたかっただけなのだ。

 結局、自分のために美夜と再会して美夜の意識を取り戻すという口実を利用しただけだったのだ。

 そんな、本当にちっぽけな理由でしか動けないダメ人間でしかなかったのだ。

 けれど、今なら言える。今なら思う。今なら確信できる。

 確かに僕の行動原理は自己保存だった。それに間違いはない。間違えようはずもない。しかし、それの何が悪いのか。何が間違っているのか。間違えようのない事実だけれど、それは決して間違いではないではないか。

 言い訳かもしれない。言い逃れかもしれない。方便かもしれない。詭弁かもしれない。

 けれど、それでも僕の中には確かにあったのだ。美夜を助けたい、美夜ともう一度この世界で会いたいという想いが。願いが。それが例え薄汚れて純粋なものではなくなっているとしても、僕の心の中には、確固として。

 自分のためでも良い。自己満足でも良い。自分の中で矛盾していても良い。

 過程なんてどうでも良く、目的なんてものもなんだって良い。

 美夜を助けられるという結果を伴うのならば、その全ては度外視しても良い。

 自分のためであれ、美夜のためであれ。

 その行いが全て美夜を助けられることに繋がるのであれば、それは正解でなくても最適解ではあるのだから。途中で道を踏み外し道に迷い谷に落ち雪崩に巻き込まれたとしても、美夜を助けるという山の頂には到達できるのだから。

 過程も目的も関係ない。ただあるのは美夜を助けられるという結果のみ。

 その一点において、その本当に本質的で根本的で決定的な一点において、僕の気持ちは揺るぎがないのだということを。

 僕はそれを自覚した途端、この病院に飛び込んできたとき以上のスピードで扉を開け放ち飛び出していた。

 きっと美夜の両親も病院の先生も驚いたことだろう。何せ最後まで存在を気付かれなかったのだから。

 けれどそんなことを気にしている時間などない。余裕などない。猶予などない。

 タイムリミットは今日の夜中。

 時間は今も刻々と迫ってきている。

 美夜にはもう、時間がない。

 僕は走る。ただただ走る。目的地など分からない。どうやって『裏側の世界』に行ったら良いかなんて分からない。

 けれど、『裏側の世界』に行かないと何も始まらない。

 僕の推測が当たっていようが外れていようが、僕に出きるのはそんなことしかないのだから。

 ふと見上げた青空に、朧月が浮かんでいた。晴れているにも関わらず、月の周りには異様なまでに霧や靄やらが霞んでいた。

 そのとき、急にあの感覚が襲ってきた。昨日のお昼頃、今日のお昼に感じた感覚。そして思い返せば、初めて『裏側の世界』に入り込んだあの夜にも感じた感覚だ。

 深く、重たく、意識の底を大きく揺るがされる。

 奥へ奥へ、底へ底へと飲み込まれ吸い込まれていく。

 自分の意識がどこにあるのか、自分は今どこにいるのかも分からなくなってくる。

 そんな車酔いや船酔いよりも激しい酔いに魘されながら、僕はギリリと奥歯を噛み締めた。

 この感覚を、この裏返るような感覚を僕は待っていたのだ。この感覚があれば『裏側の世界』に行ける。その確信と共に。

 覚悟は決めた。意も決した。賽もすでに投げられた。

 為すべきことはただ一つ。あのときから始まり、あのとき誓い、あのとき投げ出した僕に課せられた大きな使命。

 美夜を助ける。そして、美夜ともう一度この世界で再会する。

 それをば今も胸に刻み、僕は意識の反転に身を任せる。

 そうして僕の意識は、再び『裏側の世界』へと誘われていた。

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