第4話 絶望の淵

春風吹き抜ける良く晴れた絶好のお花見日和。

 太陽の暖かさに草花や動物達、そして子どもから大人までが等しく心穏やかに幸せな気分を味わっているだろうこの世界。

 そんな窓の外に広がっているであろう景色を想像することさえも出来ず、僕は今日も一人閉めきった部屋の中で灯りもつけずにただ踞るだけ。


 あれから、あの日から、あの事故から、もう3日も経った。


 あのあと美夜は駆けつけた救急隊によってすぐさま病院に運び込まれ、緊急手術を受けることになった。

 全身数箇所の打撲を受け、と内蔵の一部にも軽い損傷を負ったのだとか。幸いにも脳や心臓などの重要器官には異状はなく、命に別状はないのだと医者は言っていたのだという。

 しかし、手術が成功して傷が塞がれても、美夜の意識は一向に戻らなかった。そして今も美夜は病院の一室の中、意識も戻らず生死の淵を彷徨い続けているのだ。

 僕がそれを知ったのは、あの日の夜目が覚めたあと僕の両親が美夜のお母さんと話しているのを偶然耳にしたときだった。

 それ以来病院を出た後は、僕はこうしてアパートの自室に引きこもる生活を続けている。


 あのとき美夜を救えなかった。


 あのとき美夜を止められなかった。


 あのとき美夜を、美夜の望む答えを、言ってあげることが出来なかった。


 そんな深い後悔にも自己嫌悪にも自己憎悪にも似た薄汚い苦しみに苛まれ、僕はあの事故の原因を作った自分を責めて現実たる外界との交流を遮断してしか、自分を保てなくなっていたのだ。

 だから今日も、テレビも電球もスマホにさえも電気を通さないまま、ただ閉じられた窓とカーテン越しに聞こえるこの街特有の強風だけに耳を傾けて、美夜の笑顔を思い浮かべては悲しみのあまり嗚咽を溢し続けている。


 今が昼かも夜かも分からない。


 分かりたくない。


 分かる必要もない。


 そうやって現実から逃げているうちに、知らず僕は奥深い意識の底へ深く深く引き込まれていた。

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