第三十節 姦婦の石碑
エルサレムの神殿は、嘗て四十五年以上を費やして建てられたという。その神殿が聖都の象徴あるまじき腐敗に染まり、メシアは激怒したことがあるわけだが、改築とはいえ、数年で教会が建てられる筈も無かった。オスロエネに来たときには五十手前だった私も、次に目指す大台が六十歳となり、酷く疲れやすくなって、熱が出ることも多くなった。加齢と関係あるかは知らないが、時々陰茎が腫れて血や膿が出ることもあった。幸いにも寝床は
しかしながら、
時間が経ったことで、書簡のやりとりも増えた。各地に共同体が生まれ、そこは教会と呼ばれるようになるほどに大きくなったのだろう。悲しいかな、オスロエネのこの共同体は、まだそこまでの規模になっていない。書簡で殉教の話が出ることもあったが、大抵は資金のやりくりの話と、協会内の対立の話が多かった。
それとは別に、私への個人的な手紙が来ることもあった。相手は
私達は与えられた二つの廃墟のうちの一つに、乞食や寡達と住み、もう一つの廃墟を教会にしようとしていた。しかしあるとき、会堂帰りの
「
「はい?」
「もっと言うなら、乞食の吹きだまり二番館みたいにも見える。」
「何だとコラ。」
こっちこっち、と、手招きされて、私は
「あー………。」
「ね? なんか、特徴が無いでしょ。ここが聖堂だって行っても、前にあったとかいう裁判所とどう違うのかが分からない。これじゃ、おじいちゃんがどんなに会堂で呼びかけても、誰も来れないよ。」
「じゃあ、あの
「そんなの、ここから見える?
言われてみれば、目を細くするとそのように見えなくもない。
「何か目印をつけようよ。」
「目印? なんの?」
「だから、ここが聖堂だっていう目印。」
「だから、どんな目印だよ。看板でも立てるのか? ここの住人、貴族ですら自分の名前が書けるか書けないか、だぜ。」
「だったら、記号にしよう。何か、おじいちゃん達、いや、メシアの建物だって、一目で分かる記号。」
ふむ、と、私は考え込んだ。あまりにイスラエルに寄りすぎた造形だと、此処の人々には伝わらないだろうし、逆にここの文化に即し過ぎてても目立たないだろう。この課題は持ち帰るとだけ言って、疲れてふらふらしている
その日の晩餐は、
「たてものに、おえかきしていいの?」
私はそれを聞いて、かちっと、石造りの親石が綺麗に嵌まったような感覚を覚えた。
「そうだ、絵だ! 何故気付かなかったんだ。絵なら誰でも分かる。絵に意味を持たせて、それを正面玄関の上に飾るか、屋根の上に飾るかすればいい。」
「どんな絵を描くの?」
「………。」
「メシアのえ、あたしがんばってかく!」
「メシアだと、一目で分かる絵…。あの子の顔を描くのは、あまりに残酷だ。」
「じゃあ、記号かな。」
「メシアの名前なんて、誰も読めないぞ。」
「いや、そうじゃなくてさ。例えば…そう、おじいちゃん達は十字架の贖いによって新しくされたんだから、十字架なんてどうだい。」
「そんな血腥いもの、飾ってどうするんだ。アレ、処刑器具だぞ。」
「確かに処刑器具だけど、それ以上の意味を持ってるのが、おじいちゃん達だろう?」
一理ある。では仮に十字架を作るとして、どのようにしようか。
「では、ハチュカルに十字架を掘ってみてはいかがでしょうか。」
「ハチュカルというのは、オスロエネでは九百年近く前から作られている墓石の一種です。」
「ああ、あの墓地にある砕けた石のことか?」
「そうです。あれは元々、石版だったんです。石に女神や家紋、草花や動物なんかを彫刻して飾ると、魔除けや癒しの効果があると信じられてきました。ただ…、十年近く前、
「なるほどなるほど。大いに結構! おじいちゃんはそれに賛成だよ。」
「じゃあ、ハチュカルを作るとして。誰が作るんだ? その彫刻の形を決めるのは?」
一様に皆、私を見ている。…まあ、そうなるだろう。
「分かった分かった。なら
「はい、伊達に十年余り、お側にいたわけではありませんから!」
ハチュカルを作ったことは無いが、大工として石を削ったり計ったりしたことはあった。メシアのかかった十字架くらいの簡単な形なら、一年ほどでそうと分かるものが作れるだろう。無論職人に頼めるのならその方が良いのだが、職人に支払う賃金が無いのだから私がやるしかあるまい。
その日の晩餐は、いつもより小麦粉の量が多いようなパンが続いた。
翌日になって、ハチュカルについて学ぼうと、私は郊外の石職人達の共同体を訪ねた。いつもは建築用の石切場に行くので、少し迷ってしまった。職人というのは繊細な生き物だ。私は彼等の機嫌を損ねないように、祈る気持ちで、一歩一歩踏み出すごとに頭の中で詩編を復唱した。
「失礼。ここにハチュカルの権威がいらっしゃると聞いたのだが、取り次いでくれないか。」
仕事場らしき建物の庭に、若い職人が石を磨いていた。私がそう声をかけると、パッと顔を上げる。
「貴方は?」
「私は
「ああ、国王陛下のお気に入りの。お噂はかねがね。」
どういう噂が流れているのかは知らないが、予め私のことを知って貰えているのなら、都合が良い。私が頷くと、青年は私に着いてこいと手招きをして、建物の中に入れた。丁度休憩をしているのか、石を削る音はしない。
「親方、親方ァ。お客様です。」
石造りの高い天井に、酷く声が響いて、頭がくらくらする。よろめくと、その青年が私の二の腕を掴んで支えた。青年の呼び声に答えて、奥の椅子で休憩していた大柄な男が、とことこと歩いてくる。
「ありがとう。」
「いえ別に。」
「こら新入り、お客様に触るな。」
私が彼を庇う前に、彼が私を手放してしまった。親方だという男は、石を砕いたときに出来たのか、礫の傷跡が顔にあり、職人というよりも荒くれ者のような雰囲気だった。石を削る作業の苦労は私も知っているし、それを芸術に仕上げるのだから、こんなにも顔が険しくなるほどの重圧があるのだろうか。
「お噂は聞いていますよ、
「…貴殿が、オスロエネ一のハチュカル職人でしょうか。」
「如何にも、俺はそのように呼ばれておる。」
「実は、私どもが建てている聖堂に飾るハチュカルを作りたいのです。その為にご教示を願いに来ました。」
「ははあ? ハチュカルを? 墓以外に? なんでまた。」
「私達の教団には、文字の読み書きが出来る者が非常に少ないのです。そのような者でも、遠くから見て聖堂だと分かるように、私達の家だと分かるように、目印がないかと話し合った結果、オスロエネの聖堂ならばハチュカルが良い、という結論になりました。私は故郷で石を使って仕事をしていたので、私が教えを乞いに。」
「………。」
親方はじろじろと、頭の天辺から爪先まで舐めるように見つめ、最後にぐっと私の顔を覗き込んだ。
「?」
「おいお前達! このお客人、何に見える?」
呼びかけられて、ざっと十人に満たないくらいの職人達が集まってくる。彼等は私の姿を、やはりくまなく見つめ、顔を覗き込んだ。そして不思議なものや不気味なものを見たような目で、お互いを目配せしている。
「実に失礼な頭の使いだと思います。」
「この教団の頭は私です。何をもってそのような事を仰るのですか。」
唐突に侮辱され、私は即座に言い返した。すると、親方のすぐ隣にいた別の職人が、唐突に私の顎を掴み、ぐいぐいと色々な角度に動かした。
「やっぱりそうだ、どこにも髭がない。親方、こいつの頭は、あっし達のような落ちぶれかかった職人には、乳の無い女でいいと言っている。」
「は?」
三十年前なら、恐らく私は罵声の一つや二つ浴びせてすぐに帰っただろう。しかし今の私は、五十を越えた中年男だ。皮膚は僅かに柔らかく弛み始めて、喉仏だって昔よりもはっきり出ている。何より、私の周りでそのような、外見だの性別だの年齢だのを気にした会話や空気が、オスロエネに来てから全くなかったので、嫌悪感よりも先に戸惑いが出てしまったのだ。ごとん、と、扉の閂がかけられる音がする。逃げ道を塞がれたと気付いたが、私は慌てなかった。
「乳もなにも、私は男です。」
「へっ、知ってるぞ。ユダヤ人てのァ、髭ともみあげが命なんだろ? あとちんこの形。それが揃ってない男が、外国なんか来るもんかい、恥ずかしいったらありゃしねえ。」
「…私は、ハチュカルの技術を学びに来たのです。そのような嘲罵は、何か学びに有益なのですか?」
「なら職人の男を呼んでこい! お前みたいな女に教えるほど、職人どもだって廃れちゃいねえ!」
「何を失礼な! 私は立派な男です! 聖書だって―――。」
言いかけて、私は彼等にはイスラエル人の歴史は意味が無いことに気付いた。オスロエネにはオスロエネの歴史があるのだし、そもそも彼等に割礼の痕を見せることも意味が無い。それに、身体を使うな、と、父は私にきつく叱りつけた。
というより、考えてみればハチュカルの職人なぞ、共同体にいないだけで、趣味で掘っている者がいるかも知れない。無理に彼等に教えを乞うこともないのだ。私はつんと顔を背けて、入り口で棒立ちになっている青年を退かし、閂を持ち上げようとして―――がくん、と、引っ張られて、左肩が外れたような違和感が走った。両脇に腕を入れられ、軽々と持ち上げられる。
「ちょっと、何をするんですか!」
「なんだ、暴れるならやっぱり女なんじゃねえか。」
「女じゃなくても暴れます! 貴方方には頼みませんから、降ろして下さい!」
「これ以上職人に食いっぱぐれがあってたまるか! てめぇら外人の分際で、五百年以上続くハチュカルをぼろくそにしやがって! 我が子を次々叩き割られた俺達の無念が分かるか!」
「おい新入り! 縄もってこい! こいつが女じゃなくて連中の頭だっていうなら、丁度良い、お前の情熱もここで叩き割ってやる!」
ここで殉教するのかもしれないと、ぐっと息を呑み込む。私を持ち上げた大男が、私を回転させて、私の二の腕をぎりぎりと握りしめながら、睨み付け、しかし笑っている。私がなるべく冷静に、無表情を装って見つめ返していると、二の腕ごと縛られ、手首も縛られる。変な縛り方をするんだな、と、人ごとのように思った。石を削る為の
「親方、こいつ、やっぱり女ですぜ、月のものが出てる。」
「はあ!?」
恐らくその場にいた全員が声を出した。私が一番驚いたが、すぐに合点がいく。また私の陰茎が腫れて、血を流しているのだ。
「なぁんだ、一人でノコノコやってきたのはそういうことかい。こいつを孕ませて、その子供で和解しようって腹か、くだンねえな。」
「俺達の子供以外孕めなくしてやるよ!!」
「―――私の下履きをとってみなさい。」
勘違いを正すのも馬鹿らしい。下血しているということは、恐らく陰茎は腫れている。大きいかどうかは別として、間違っても奇形の女には見えまい。私の挑発を受けて、親方が宙ぶらりんだった私を引き倒し、床に打ち付ける。ガァン、と、派手な音が聞こえて、頭がぬるぬるし始めた。血が出たらしい。この量だと、中々止まらないかもな、と、思っていると、下履きを剥がした男達がどよめいた。どのみち逆上されるだけだろうと思って、私は吐き捨てた。
「どうした? 私を孕ませるんじゃなかったのか? その為の穴があるなら見つけてみたまえ。」
そう言って、釘付けになっている親方の頬を側頭で蹴り上げる。親方はそれを激しく喰らったが、別の男が私のその脚を掴み、ぐっと上下に開いた。少し年をとって硬くなったが、それでも十分過ぎるほど、上下に脚が開く。
「どっちだ? これ。」
「おい、ちんこの裏探してみろ、
熱を持って血を垂れ流すその姿は、正しく勃起した陰茎そのものであるので、誰もが癒そうな顔をしたが、私の頭の上の方から腕が伸びてきた。興味深そうに私の陰茎を無遠慮に握り、あっちへこっちへ傾ける。握られた感触がぶよぶよして、皮膚が動く度に、血が溢れた。
「無いみてぇです、親方。それかよっぽど締まってるか。」
「あるとしたらこの辺か。」
「うぐぅッ!」
ドスッと爪の伸びた三本の指が、私の陰茎の裏を突く。それがあまりにも深くて、私は呼吸が乱れて悶絶した。どうやらそれをみて、彼等は勘違いをしたらしい。
「どうやら縫ったみたいだな。おい、
「こんな所が縫えるか、馬鹿!」
「うるせぇッ!! お前は黙ってヤラせろ!!!」
頭を掴まれ、ぬめる後頭部を床にこすりつけられる。物珍しさに欲情したらしい男達は、私の服を首までたくしあげて、私の胸が本当に男の胸なのかどうか、好き勝手に触り始めた。二の腕で縛られているので、乳輪の少し上くらいまでしか服がたくし上げられない。ぐっぐっと縄を動かして得る苦しさよりも、
「ねえな、よっぽど腕の良い医者だったんだろうよ。」
「親方、じゃあなんでこいつは月のものが来てるんです?」
「そりゃお前、前と後ろ、逆に付いてんだろ。」
「ふぁ?」
「ま、待て―――ぐあああァッ!」
きょとんとしている男達を尻目に、親方が突然、全く触れもしなかった所に突き進む。緩く柔らかくなった肌が限界以上に引っ張られて裂ける。嘗て攻め込まれ、それでも十年以上侵入を許さなかった、荒れ果てた砦に、巨大な馬の牽く戦車が突っ込んでいって、見る見る内に残骸を蹴散らしていった。潤滑油の代わりは、私自身の爛れた血らしく、むっとした臭いがかき混ぜられて弾ける。耳の奥が歪み、二の腕で縛られた縄が激しく動いた。
「すげえ、名器って奴だ。凄ェ締まる。」
「や、止め、苦し―――ひぐっ!」
「ああ、さっき指で圧したとこ、多分ここが子袋なんだろ。締め付けてくるぜ。」
好奇の目が好色の目に変わっていくのを感じる。子袋なんかあるか、ただ陰茎が腫れて血が出てるだけだというのに、何故こいつらにはたったそれだけの事が分からないのだ。理不尽な暴力に怒りを感じる反面、嗚呼ここでも娼婦になるのかという深く空虚な絶望感もある。ただ私が十年前と違うことは、あの時は全くの抵抗を許されない状況だったが、今はそうではないということだ。彼等は私を女だと思っている。女の使者を傷付けたと言って、『被害者』になれるのは私達の方だ。私はガチガチと鳴る奥歯を噛みしめて、苦し紛れに叫んだ。
「こんな、こんな、ことを、して、ただで、すませる、ものか! はぁ、はぁ、はぁ、その、粗チンを、と、とっとと抜け!」
「うるせえ、外人!!!」
ガンッと顎を殴りあげられる。また後頭部がぬめった。頭がぐわんぐわんと鳴り、何か興奮した男達の叫び声や怒鳴り声が聞こえるが聞き取れない。ぐっと私の口に何かが押し込められた。舌を圧され、口の中いっぱいに頬張らされて、息が上手く出来ない。かふ、かふ、と、小さな空気の喘ぎ声は聞こえるのに、周囲の男達の声は全く聞こえなかった。
「おら、一番手はこの親方さまだ、しっかり孕めよ、
「んぐ、んぎ、んぐぅっ!」
興奮に滾って膨張した粗末な
「んっ、んんんんっ! んーんー!」
そこに触るな、と、私が激しく抗議すると、奴は女にするかのように、ぐっぐっと捻った。
「お、お、おい、も、我慢できねっす!」
かぽん、と、石が取り除かれる。激しく咳き込み、口の中で逆流していた血を吐き出そうとすると、耳の付け根を掴まれ、ぐっと後ろに頭を反らされた。かぱっと空いた口の中に、ぐっと細長いものが突っ込まれ、喉につかえる。噛み付こうにも、顎が完全に開かれて舌すら禄に動かせない。
「お、おいのも、舐めて、おっきくしてほしいっす。次、つぎ、いれるから、準、準備してほしっす!」
「あ…あ、お…ぅ…。」
とにかくこれを舐れば引き抜いてくれるのだろう。それだけで大分苦しくなくなる。そう、息をするためだ。決して自分から動くのではない。呼吸のためだ。呼吸のために、仕方なく舌を動かすのだ。
「ご…っ! え、あ…あぉっ!」
誰かが私のぶよぶよの下半身にすりつけている。そうして研いだ短剣を私に埋め込んで、勝手に定めた子袋を目掛けて腰を動かす。その子袋とやらを突かれると、私という弦が酷く響いて振るえるのだ。何故そうなるのか、思い出せない。私の身体を最後に暴いたのは
「おい遅漏、いつまでやってんだよ、オレのもやらせろよ。」
「親方親方、手首だけでも縄解いちゃいましょうよ、この分だと指も器用でさ。」
細長い涙袋が口の外へ出て行き、空気がやっとまともに入ってくる。それと同時に聞こえた言葉は、脱出のための希望では無かった。既に手首の踝に違和感がある。多分捻っているのだろう。手首の縄を切った刃物が、勢いづいて私の手首の踝をも削る。皮が剥がれたかも知れない。二の腕は縛られているから、肋の横から、肘から先だけが自由になる。一体何人いるんだか、両手に同じ違うものを握らされる。力が入るのなら、全身を使って連中を満足させて、さっさとここから出て行った方がいい。だが同時に、連中如きのために私の身体の少しでも多くの部分を使うことは―――今更ながら、本当にそれは屈辱だと思ったのだ。
「く、ぅうぅ…ッ。」
骨がどこか折れているらしく、身体に入れる力の均衡が取れていない。呻いて、握らされたものを指で弾くと、目の前が横転した。殴られた、と、気付いたのは、口の中で歯が浮かんだからだ。反抗して傷が増えて、こんなところで、こんな風に汚されたままで死ぬのだけは勘弁だ。私はうまく力の入らない右手を伸ばし、だらんと垂れ下がったそれを握って動かした。何か興奮する要素があったらしく、私の指で作られた穴に無心になって腰を振っている、滑稽な男が見えた。もう片方の手は、別の男が勝手に私の左手を掴み、自分の好きなように動かした。ぱっと弾けて、顔にかかる。酷い早漏もいたものだ。ただ満足できないのか、それとも足りないのか、残っているらしいものまで扱いて掃きだそうとしている。そうこうしているうちに、右側の男も満足したらしい。目に入ったものを拭おうと手を顔にやったが、縛られているせいで、頬の下のほうまでにしか指が届かなかった。顔を振って振り落とそうとした。口に突っ込んだ男が興奮し、大量に吐き出す。気道に入って、激しく
「おい、ちょっとそれ出したら退け。」
「なんすか、親方。オレの番すよ。」
「いいから、ちょっと見てみたい眺めがあるんだよ。」
腰の奥が水を吸い込んで重くなる。殴られた余波と、大量に注ぎこまれて溺れたのとで、まだ眼球が回転している。自分の中に入っていた生きる
「おい、起きろ。」
「んう…っ?」
額を掴まれて、上半身を起こされる。掌の隙間から、笑いが零れるくらいに悲惨な事になっている私の下半身が見えた。親方は、禄に動かない私の身体を引き摺って、自分の上に乗せた。親方の腹の毛が、私の頬の白い涙と絡まる。腰を持ち上げられ、あ、と、思った次の瞬間、もう一度、今度は下から突き刺さった。その勢いがあまりにも激しくて、身体が持ち上がる。
「んぁう…っ!」
それでも無様な声を出すまいと、口を硬く引き結んだ。それが親方は面白く無かったのだろうか。ばしっと尻たぶを叩かれた。驚いて身体が竦む。
「自分で動いてみろ。俺は嫁が一人目を産んで死んでよ、それ以来ヤッたことはねえんだ―――自分の上で身体を揺する淫乱がどんなもんなのか、見てみたい。」
「いん、ら…? ぼく、が?」
掠れる視界と声で、僅かに反応を返すと、面白そうに親方は言った。
「だってそうだろ、寝床だけでもと主導権を握ろうとするような女のする事なんだ、淫乱に違いない。」
「………???」
よく分からない。何か決定的におかしい台詞を吐かれた気がするが、理解できない。
「ほら、振れよ! そんでイきたいって言え!」
分からない。分からない。分からない。何を求められているのか分からない。何を求めるべきなのかも分からない。言葉か、行動か、或いは情か。どうしたらいいのか分からない。
親方は舌打ちをし、両腕で腕枕をして、私以外の誰かに命じた。
「こいつの尻で鉋がけしろ、こいつ一人じゃ動けねえみてえだ。」
その言葉の意味するところが理解できないでいると、突然肩に物凄い重量が押しつけられた。その所為で楔が深く食い込み、子袋と呼ばれた場所が潰される。掠れた悲鳴を上げた私の、縛られた二の腕や肩や首、背中が握られて、文字通り削るような動きで、親方の身体の上を全身で滑った。
「ま、まて、あ、あぐっ、でき、できる、ひとりで、できるから…っ! うっ…ぐ…、…んんっ。」
「とろくさいんだよ、お前。ほらお前等、もっと圧せ! そーれ!」
「そーれ! はははっ。」
「くぁ、は、はなせ、はなして! ううっ、んんっ、まっ、待ってそこは―――あアあぁぁぁッ!」
楽しそうな笑い声が聞こえる。自分の体重よりも重くなった自分の身体が、何よりも深く抉ってくる。さっき見つけたという子袋とやらに引っかけて、私の内蔵の奥の奥で射精しようと、只管只管深く大きく、捻るように抉ってくる。こぷ、と、確かに何か、狭い所にねじ込まれるような音がした。彼等はそれを、『子袋に入った』といった。それはすぐに離れて抜けてしまったが、私がその時悲鳴を上げたのがお気に召したらしく、何度もその子袋とやらに笠を入れては抜いて、楽しそうに吐き出す。
「ほら、気持ちイイだろ? 子袋突かれて気持ちイイだろ? イきたきゃイきたいって言えよ。」
「く…っ、は、は、…はぁ、…っ、こぶくろ、なんか、ないっ!」
「じゃあこの狭くなってるの何だ?」
「知るか!」
「じゃ、子袋って認められるくらい、どろどろのたぷたぷにしてやんねえとな。おい、今勃ってるやつ、後ろからねじ込んでやれよ。」
私は耳を疑った。いくら年を重ねて皮膚が弛んでも限度というものがある。私が抗議する前に、親方が私の体を倒し、腰をわずかに浮かせた。位置と角度の隙間から、同じくらいに猛ったものがねじ込まれ、あまりの圧迫感に、私は口から精液を吐き出した。彼らは終始楽しそうで、私の耳の穴にねじ込もうとする変人もいた。
そう、楽しそうだった。
きっとこれは楽しいことなのだろう。血と膿とそれ以外のもので汚されながら、私は静かに笑った。
きっと、楽しいことなのだ。きっと、そうなのだ。
―――そうだよな?
漸く一通りの気が済んだ頃になると、もう辺りは真っ暗だった。
灯火をつける間もなく、ぎらついた男達の目が夜闇を潜って私の痴態を眺めた。私は打ち捨てられて、その場で息をしているだけだったが、連中は私を縛ってみたり立たせてみたりするだけで、十分楽しめたようだ。彼等は気が済むと、石を乗せるためらしい荷車に乗せて、どこかに打ち捨てた。このまま眠ってしまっても良かったが、『帰らなくては』と、強い感情に突き動かされて、立ち上がった。
そこから先の事は、よく覚えていないけれども、凍てつき回転するような迷妄の海が、穏やかで魚の泳ぐ暖かな凪の海になった辺りで、完全に意識が無くなった。
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