第二十一節 桂冠の憂鬱
しかしナザレ派にもその波は来ていて、私が
それでなくとも、
そこで
しかして
「はあ………。」
とは言え、
「どうした
「ああ、せん…失礼、
「
私はこれから疲れる話が長引くだろうと、ごろんと床に寝そべった。それを受けて、
「いえ、それは先ほど仲裁してきたんですけれど。…そうではなくて、弟が心配で。」
「弟? お前、孤児で
「いやいや、そんな大袈裟な話ではなくて、弟弟子ですよ。ラバンの所で、私と一番長く学んでいた弟弟子がいるんです。」
「弟弟子ねえ? そいつ、今どうしてんの。」
「ええ、どうも、私を探しているみたいなんです。『
「そんなの、ぼくは聞いてないぞ。」
「ええ、ヘレニスト側の男がそう言われたので、私の立場を考えて、
「はあ………。」
ここに来てまだ派閥争いを考えている事に、溜息が出た。
「私は名乗り出た方がいいのでしょうか? 聡い子だから、
「いやー、止めといた方が良いと思うぞ。寧ろ引っ込んでろ。ぼくはヘブライストとヘレニストの仲裁なんて出来ない。少なくとも、お前の後任が育つまでは、お前は無事でいるべきだ。っていうか、無事でいてくれ。」
「ご当人から、私達は
「言ったよ。言ったけど、一緒に育ったから、特別な恵みをなんたらこうたらと…。母さんへの崇敬なんて、まるで女神みたいだ。」
「女神?
「あ、いや、噂というやつさ。」
「難しいですね。メシアと同じ時代に生きていても、私達はメシアを肉眼で見たわけではない。御母堂さまが特別な聖女であることは間違いありませんが、そこに神秘や神を見いだすのは間違っています。」
「ぼくから見たら、ただのどこにでも居るおばさんだけどな。」
流石に睨まれた。
「話を戻して…。必要なら、
「今、伝道してる場所は、エマオの方です。」
「エルサレムの東だろ? 馬に乗ればすぐさ。明日、ぼくがエマオに行く。で、
これは実に奇妙なことなのだが、メシアがまだ
要するに、政治的指針と、信仰上の指針の組み合わせが多様で、共同体の中にも様々な仲良し組があったのである。
「もし馬を使うなら、
「そうか、じゃあそれを伝えてくるよ。」
すると、黙っていた
「先生、私はどちらに着いていけば良いですか?」
「お前を馬に乗せていくことは出来ないから、お前は
「じゃ、
「はい、先生。…じゃあ、
こうしてみると、
「時に
「魔術師?」
「ウン、しかしね、これが悪魔崇拝者じゃないんだってさ。神に選ばれたと自信に満ちていて、どうもその信仰心で、奇跡を起こすらしい。」
「ならいいんじゃねえの? 別に敵対してるわけじゃなし。」
「えっと、えっと、要するにね。自分の力で起こしてるって言ってるんだよ。もう四十年は続けてるらしいから、メシアにもらった力じゃないよ。」
「メシアが生まれる前だって、神の力は母さんに下ってたぞ?」
「でもやっぱりよくないよ。神さまの力や御名じゃなくて、自分に備わってる能力だって言ってるんだよ?」
「んー…。まあ、現地に行ってみようぜ。それで目に余るようなら、改心させればいい。」
その日の晩餐は、少し豪華だった。それで、私達は自分達が宣教の場所を変えたことを言いそびれてしまった。そしてそれが、私が
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