第9話 ルビアVSセシリー 下
ルビアさんを呑んだ大量の水が蒸気となって演舞場を満たして行きます。
視界が悪く、彼女の姿は確認できませんが、断言できますあの人は絶対に健在です。
「まさか、あれで終わったりしてませんよね?」
「当然でしょ、これからが楽しいのに――」
上空から聞こえた声に、全ての浮遊水球『蓬莱球』が反応し、突撃していきます。
私がそちらを向くと、水球は両断。目に入ったのは靄越しでもわかる、赤い斬閃。
直後に真空の刃が蒸気を切り裂いて、彼女の姿が露わになります。
「……そうですか、それが……」
「そうよ、この形こそがハイネリアの『赤騎士』よ」
そこには、神話にでも登場しそうな勇姿を誇るルビアさん。
炎鎧の背が変形し、二本の突起が生えて炎を噴出し、まるで翼のようで、とても美しい。
こんな形状の『赤騎士』を見たのは初めてですが、正直勝てる気がしません。
「じゃあ、行くわよ」
「! 負けません!!」
ルビアさんの宣言に反射で答え、すぐに後悔。
翼の噴炎を操った強引な加速で、気づいたら目の前に炎剣。
咄嗟に張った防御魔法と『水剣』で受けますが、あまりの衝撃に即粉砕。
耐えることも許されず、吹き飛ばされてしまいます。
「きゃあああ!」
私らしからぬ可愛らしい悲鳴をあげて、木の葉のように地面を転がされます。
何とか勢いを止め、体を起こそうと――私がルビアさんの斬撃に斬られる姿を幻視します。
私の魔眼が見せた光景を信じ、組み上げた六つの上級魔法式を、並べて斉射後、横っ飛びで回避。
迎撃の魔法を粉砕しながら、ルビアさんが再度突撃し、私が直前までいた場所を薙ぎ払っています。
「未来視、やっぱり便利ねそれ、あのタイミングで躱されるとは思わなかったわ」
「魔力活性しないと使えませんし、視えたり視えなかったり、内容も直感程度で出来損ないの眼ですけれど」
速度、攻撃、防御の全て、ルビアさんが上でしょうね、正面からではまるで勝ち目がないでしょう。
ならば! 私の得意分野で攻めるしかありません。迎撃覚悟でルビアさんの懐に飛び込みます。
「突撃!? 勝負を捨てたの?」
「……まさか!」
意表を突かれたルビアさんの驚嘆に小さく答え、魔法を隠蔽発動させます。
神速の剣撃が、私の作った幻影を切り裂きます。
「! ええ!!」
本体の私は、彼女の側面へ回り込みます。更に!
『今度は、私が攻める番です』
「そこ!」
風魔法で別方向から響かせた声に、ルビアさんが反応します。相変わらず、とても素直な反応です。
再構築した『水剣』で切りつけますが、風と炎に妨げられて効果なし、解っていたことなので、即離脱します。
切り付けた『水剣』は熱で沸騰して使い物にならないので解除。
「くう! 相変わらず、面倒くさい攻め方ね」
「毎回、面白いくらい引っかかって下さるので助かります」
「生意気! 斬る!!」
苛立ち気味なルビアさんの突撃に取り合わず回避。
ちょっと卑怯ですが、背後から氷の上級魔法『
一点集中したおかげか、鎧の脇から背中にかけて一部は削れましたがルビアさん自身に大きなダメージは無さそう。
「大したものね、同期で『赤騎士』を抜いたのはリオン以外だとアンタが初めてよ、セシリー」
「冷静になってしまいましたか、残念です」
「魔法の発動が全く読めなかったわ。誰が指導したかは予想がつくけど」
ちらりと審判をしている少年に目をやったルビアさんは、何事か考えた後、剣を構えなおし剣呑な表情。
「うん、あいつが見てる前で、これ以上情け無い姿を晒すのは何か癪ね。って訳で、セシリー花はもたせてあげたし、次で終わりにしましょう♪」
「!」
始まったのは一方的な猛攻でした。
噴炎加速を使った一撃離脱、空中機動からの魔法攻撃、再度の突撃と、間断ない攻め。
ちょっと容赦なさすぎですよ、この純情公女様わー!
絶対にリオンさんにいいところを見せたいとか、そんなことを考えたに決まっています。
何だか腹が立ってきました。
突っ込んでくるルビアさんの目の前で閃光魔法を発動します。強烈な光が演舞場内を白く照らします。
「貰いました!!」
脚に目いっぱいの身体強化を施して跳躍、目をやられて動きを止めたルビアさんの脇腹に向かって、短剣を突き出します。
――勝った。
そんな風に思った瞬間、私の眼が見せたのは背後から魔法を受けて倒れ伏す自分の姿。
「あら、もしかして視えちゃった?」
「!?」
動きを止めた私に、背後からルビアさんの声、同時に目の前の彼女が朧に歪んで消えて行き――そんな! 彼女がこんな搦め手を使うなんて!
即座に身を捻って短剣を振りますが腕を掴まれ、胸元には彼女の手が添えられます。
「『蜃気楼』、今まで散々やられたから、最後にやり返せてよかったわ♪ 楽しかったわよ、セシリー。これで、王手よ――」
――――『破軍の
ルビアさんが言葉を紡ぐと、猛火の篭手が解かれ、赤色の竜巻が私の胸を打ち抜かれます。
ああ、敗けた。結局一度も勝てませんでしたか。
悔しいですが、やれるだけはやりましたから、一応満足しましょう。
とりあえず、痛みで体が動かなくて、受け身の一つも取れそうにないのが問題ですね。
来る衝撃に備えて、目をきつく塞ぎ。
いつまで経っても痛みは来ず、代わりに優しく包まれる感覚。
「そこまで、勝者、ルビア・ハイネリア!」
すぐそばで聞こえたリオンさんの声に、目を開けると――な、なんで彼が私を抱き上げているんですか!
「~~~~!?」
「ちょっと、なんでセシリーを、だ、抱き止めてるのよ!」
「やり過ぎだよ、ルビア。加減しててもあんな魔法じゃ、衝突の勢いだけで大ケガだよ」
ルビアさんとやり取りするため、上を向いている彼の顔が近い! 近いです!!
私を抱いている彼の腕が、以外と逞しいとか、思ってません、思ってなんかないんです。
「むう、いつまでその子を――リオン、今すぐセシリーを降ろして、後ろを向け!!」
「? 何を言って……!?」
突然、語調を強めたルビアさんにつられ、私を見たリオンさんは驚愕。
大慌てで、でも優しく私を床に降ろすと、背を向け、いそいそと自身のローブを脱いで、後ろ手で私に指し出してきました。
彼の行動の意味が分からず、私は視線を下げ――そこには、先程のルビアさんの攻撃で焼かれ、下着ごと訓練着がボロボロで……。
「!? い、いやあああああああああ!」
見られた、男の方に見られてしまいました。
ローブを受け取る際に、ちらりと見た彼は耳まで赤くされていて。
――神様、勝負に敗けた上、この仕打ちはあんまりじゃないでしょうか。
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