第8話 ルビアVSセシリー 上
卒業検定実技試験も順調に進んで、最後の一組を残すのみ。
ちなみに、なるべく均衡を取る為、実力が近いものどうしが当たるように試合が組まれているので、最初からこの一戦だけは決まっていた。
すなわち、現王立グレンス学校最終学年、首席ルビア・ハイネリアと次席セシリー・レストマンの一戦だけは。
「ちょっと、何を遠い目をしているの? こっちを見なさい、リオン」
「何処かのこわ~い公女様が、ずっとこっちを睨んでらっしゃるので、小心者の僕としては、現実逃避でもしないとやってられないのさ」
「ダ・レ・の・こ・と・か・し・ら?」
「さあ、誰の事かな、お久しぶりですね。ルビア・ハイネリア公爵令嬢。随分、髪を伸ばされた様で、その髪型、よくお似合いですよ」
「!? そ、そういう不意打ち……」
おお、女性の容姿は褒めるべしという、高等学校、大学校と年上の同期生であったお姉様たちの指導は真実だったか。
強気一本な、あのルビアが、髪の一房を指でいじいじしながら、赤くなって顔を背け、こっちをちらちら、何この可愛い生き物。
「コホン。リオンさん、そういうのは後にして下さい」
セシリーからの侮蔑の籠った冷たーい視線、冷や汗が、帰ったら怖いなぁ。
「あら、セシリー、そんなに早く負けたいの?」
「ほざかないでください、ルビアさん。最後は私が勝たせてもらいます」
「ふふ、可愛いわよ、アンタの虚勢。それを聞くのもコレが最後かと思うと、心地よくさえあるわ」
「どういう意味ですか?」
「だって、アンタはどうあってもアイリスに付き従うでしょう?」
「当然です。それが私の道ですから」
「なら、来年アンタは高等学校にはいない、必然こうして戦うのも最後になるじゃない」
あからさまな挑発にセシリーの魔力が活性化していく。
更に、目を完全に据わらせ、腰の短剣を引き抜き相対するルビアへと切っ先を向ける。
「いい目ね。まさか、本当にアイリスが、あそこに、入学できると思っている訳じゃないでしょう?」
「思っています! あの方は必ず入学される」
断言、セシリーのアイリスへの思いの強さを体現するように、魔力が彼女の
ちらっと観覧席に目をやると、試合を終え熱狂する学生に混じり、銀髪のお嬢様が既に泣きそうな顔で、状況の推移を見守っている。
「従者失格ね。盲目に仕えるだけでなく、諫めるのも務めでしょう」
「だから、お嬢様は進学できなければ、魔法を諦めると決めています」
「ふーん。でも、王立グレンス高等学校に落ちたっていうのは、公爵令嬢としては傷になる」
「……」
「勘違いしないで、私はアイリスを友人だと思ってる。槍術と体術は尊敬しているし、学力は勝てる気がしない。でも、こと魔法に関して、可能性はない。努力家で気立てもいいあの子が傷つくのを見たくない。それを、止めることができるのは、一番近くにいるアンタでしょ?」
同じ公爵令嬢として、アイリスを心配するルビアの言葉と想いに嘘はない。半分以上この試合を面白くするために、セシリーを煽るのが目的なんだろうけど。
「止める必要はありません。先日、新しい魔法講師も雇いました。彼なら、奇跡を起こしてくれると、信じさせてくれるくらいには優秀な方です」
「へぇ、そんな奴がいるの?」
「優秀ですよ。なんせ、一年時、才媛ルビア・ハイネリアを常に次席に甘んじさせて、飛び級卒業何ていう勝ち逃げをかました、王国きっての天才ですから」
「! な、なな! なああ~~!?」
ギロリとルビアの顔がこっちを捉える。セシリーと違い、魔力が溢れて暴れだす。
セシリーの顔には
巻き込まないで下さい、いや、本当に。
「ふ、ふふ、ふふふ、いいわ、事情は後で聞くとして、今は、生意気な次席さんに格の違いを教えてあげる!」
「戯言を言わないでください。別に席次にこだわりはありませんが、王立学校での有終の美は私が飾らせてもらいます」
「上等!! 後で吠え面かかせてあげる」
「お嬢様を愚弄した事、後悔させてあげましょう」
勝手にボルテージを上げていく二人の少女が、ほぼ同時に僕を睨む。
模擬戦ですよ~、その闘気ちょっと抑えて欲しいんですが、無理ですよねぇ。
僕は諦めて、手を差し出す。
「では、最終戦、始め!」
「「!」」
開始の合図と同時、距離を詰めようとしたセシリーを押しとどめたのは、肌を焼く程の熱風。
ルビアが瞬時に組み上げた精緻な魔法式。すごい、こんなに早く発動できるようになったんだ。
「最初から全力で相手してあげる。少しはもたせなさいよ」
「構いません。それを破りたいんですから」
ルビアの全身を炎が包む。やがてそれは、彼女の四肢を守る紅蓮の鎧へと変化していく。そして、熱された暴風が更に火力を底上げ、鎧を朱から
ルビアが腰に佩いた直剣を引き抜くと、その剣身はすぐさま風と炎を纏う。
風に巻上げられた金髪が、炎に照らされ、なんとも神秘的で美しい佇まいだ。
――南の雄ハイネリア公爵家が誇る、風と炎の秘奥魔法『
装着を終え、ルビアが剣を一閃。
真空の斬閃、そして振り戻す大気を喰らった猛火の炎刃、二重の斬撃が、セシリーを襲う。
「甘いです」
セシリーは慌てることなく、手の短剣を振り下ろす。刹那、迫る二重の斬撃が両断されかき消される。
短剣は藍色の剣身によって延長されている。
更に彼女の足元から八つの水球が浮かび、セシリーを守るように回り始める。
――水の中級魔法『水剣』、同じく水の
「次は、こちらから行きます」
「好きにしなさい。正面からねじ伏せてあげる」
セシリーが足のつま先で床を叩く。
直後に彼女を中心とする、水の渦が発生。範囲を広げ、やがてルビアを呑み込まんと襲い掛かる。
僕はとっとと浮遊魔法で上空に退避する。
「上級魔法『
「余裕ですね。その鎧、剥ぎ落して差し上げます」
「やれるものならね。面白くなりそうだわ♪ 早々に、終わったら承知しないわよ?」
互いに不敵な笑みを浮かべ対峙するも一瞬、横薙ぎの大波がルビアの姿をかき消した。
間違いなく、世代最強クラスの少女二人の激突は、まだ始まったばかりだ。
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