都合のいい生き物
変太郎
僕は、
僕は、一年前に恋人を亡くした。
大好きだった。付き合っていた期間は2年ほどしかなかったけれど、生まれてから一番楽しい時期だった。
彼女のいない春は、何かが足りない気がして。新しいことを始める気にもなれず、ただ一人、
進路もまともに決まっておらず、バイトで稼いだ金でなんとか一人暮らしをしている。親への影響はプラマイゼロ、子育てしてもらっていた期間を考えれば、圧倒的なマイナスになるだろう。
僕はもう大学生らしい。身長だけ伸びる一方で、中身は中学生の頃からさして変わっていないような気がする。
なんというか、生きている意味がわからない、みたいな。馬鹿らしい悩みだ。そんなもの、誰一人としてわからないで生きているというのに。
口では誰かのために生きている、なんで言っても、仮にその人がいなくなっても死んだりなんかしない。
誰だって自分が一番で当たり前で、自分と様々な感情を共有してくれる誰かを欲している。だから、最終的には"大切な人"の存在は必須という結論に至るのだが。
花見をするにしても、花の美しさよりも、それを誰かと見ることに重きを置いている人が殆どだろう。そんなことを考えつつ、周囲の仲睦まじい親子を横目に、桜の写真を撮る。
写真なんか正直それほど興味はなかったが、なんとなく撮った。
僕には今、好きな人がいる。その人は僕のことをやけに心配してくれる。その人が言うには、僕には活力がないらしい。そんなことを言われたって、あの頃のようにはなれないさ。
あの日亡くなった彼女は、もしかしたらまだ僕に恋をしているかもしれない。
でも僕は、また別の人を好きになってしまった。
これでいいんだろうか。
僕は、優しいあの人を、君の代わりにしてしまってはいないだろうか。
彼女が僕と、恋愛において、気持ちを共有できていないと知ったらどう思うだろうか。
家に着くと、どうしてか彼女と撮った写真を遡って見てしまった。もう泣かずに済むようになったけれど、なんだか申し訳ないような気持ちになってしまって……。自分の"愛"の矛先がわからなくなってしまって……。
人間は、都合の良い生き物だ。
いや、あらゆる生き物はそうやって生きているのかもしれない。むしろ人間が一番過去に囚われている。僕は間違いなく彼女のことが好きだ。人間として。友だちではなく、恋人ではなく、ただ僕にとって大切な存在として。
大切な存在とは別に、恋人がいても良いのかもしれない。
気づけば1時間もスマホの画像フォルダを眺めていたようだ。
ふとさっき撮った桜の写真が目につく。
桜って綺麗だな、なんてつまらない感想が頭に浮かぶ。でも、それだけじゃなかった。だんだんと、桜の向こうにある青空に惹かれていく。
いつもそこにあるのに。ずっと知っているのに。目を向けてこなかった存在の美しさ。
大きな空に、青い春の空に、清らかな雲に、勇気貰えたとまでは言わないけれど、ほんの少し前向きにさせてもらえた気がした。
都合のいい生き物 変太郎 @uchu
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