第12話
時計を見ると、まもなく11時になろうとしていた。そんな時、ピンポンパーンと校内放送がかかった。
『マーチング部のみなさん、お疲れさまでであります。1時間後の12時、各自楽器を持って音楽室に集合してほしいであります。全体での行進練習を行うであります。それまで昼食を終えておくであります』
ピンポンパーンと、校内放送が終わった。
涼は、トロンボーンをおいて、いった。
「僕たちも、そろそろご飯にしようか」
「「「賛成っ!」」」
私たちもトロンボーンを置いて、机の上に弁当箱を出した。
お腹が減ってきた。
「陽ちゃん、今日は何のお弁当を持ってきたの? すっごい豪勢な容器だね」
「なんだろう。何だか、いつもは使わない豪華な弁当箱に入っているのだ!」
陽子はニコニコしながら、弁当箱の蓋を持った。弁当箱というより、正月のおせちを入れる容器だ。
「じゃーん、きっと豪勢なは……ず……ありゃ? なんなのだ、これは?」
弁当箱の中には、半分に切られた肉まんがあった。下の弁当箱にも同じようなのが半切れあった。
陽子は、埴輪のような顔になってそれを見ている。涼も、眉間にしわを寄せて、自身の弁当箱の蓋をとった。
「ま、まさか。僕のも?」
蓋を開くと、陽子と同じように半分に切られた肉まんが、上と下にあるだけだった。
いや、肉まんじゃない。
よく見たら、あんまんが混じっていた。肉まん1個とあんまん1個をそれぞれ切って、両方にお弁当に半切れずついれたのだ。
涼が、ため息をついた。
「母さん、急いでいてちゃんと作れなかったからごめんっていっていたけれど、こういうことだったんだ。せめても、外見だけでも豪華にしたかったんだろうね」
「しかもこれ、冷凍食品の肉まんとあんまんなのだー。まったく、食べ盛りの子供たちを何だと思っているのだ」
涼は、席を立った。
「ちょっと僕、コンビニに行ってくるよ。うさと龍崎さん、ついでだから何かあったら買ってくるけど、なにか欲しいの、ある?」
おお、これはラッキーだ。私は頼む事にした。
「ウサミは、炭酸ジュースが飲みたいなー。種類はおまかせするよー」
私は、財布から百五十円を取り出して涼に渡した。
「ふみちゃんは何か、あったりする?」
「私はお茶がいいですぅ。涼先輩、このお礼は必ずしますぅ」
ふみちゃんは、お金を渡す時、涼の手をぎゅっと握りながらいった。涼は、ちょっと戸惑っている様子だ。
「別にしなくてもいいよ」
それを聞いた陽子は、ふみちゃんにいった。
「だったら、涼へのお礼を姉の私が代理として受け取ってあげるのだ。ふーみん、ちょうだいなのだ」
「嫌です。陽子先輩は何もしていないじゃないですか」
「ケチんぼなのだー」
陽子は、財布から千円を取り出すと、涼に渡そうとした。
「涼、私には適当なお弁当を買ってきてほしいのだよ」
しかし、涼はそれを受け取ろうとせず、真顔でいった。
「おい、陽子。おまえは一緒に来るんだよ。甘いことをいっているな」
「えーっ。面倒くさいのだあ」
陽子は、本当に面倒そうに立ち上がると、涼の後ろをついていった。一方、ふみちゃんはとても羨ましそうに陽子の背中を見つめていた。
私とふみちゃんが、生徒会室に残ると、私は水筒を取り出した。
「ふみちゃん、ウサミたち、一足先に食べていよっか」
「うん。食べようかぁ」
ふみが蓋を開けると、私はその弁当箱を覗いた。美味しそうなおかずがたっぷりとはいっている。唐揚げとか卵焼きとか。
「宇佐美ちゃん、これは昨日の夕飯のあまりだよ」
「えっ? なんで、突然そんなことをいってくるの」
「だって、宇佐美ちゃんの顔を見ていたら、私の弁当を見て、すごいなーって風に見てたんだもん。わざわざ作ったものじゃないからねぇ」
「観察力がするどいっ!」
ふみは、卵焼きをモグモグしてから、話しかけてきた。
「それにしても、ウサミちゃん。トロンボーン、すごく上手に吹けるようになったねぇ。始めてまだ3ヶ月とは思えないょ」
「えへへ。家でも練習はしているよ」
「でも、才能ってのもあるかもしれないねぇ。さすが先生の妹だなぁ。私も負けていられないなぁ」
「才能かどうか分からないけれど、そういえば、大部分のセンスって子供の頃に決まるんだって。ふみちゃん、何歳までと思う?」
「3歳かなぁ?」
「ピンポーン。三つ子の魂百までだっけ? そんな言葉あるよね。っで、次に大事なのは8歳ぐらいまでなんだってね」
「うわあ。じゃあもう私たちは、通り越しちゃっているねぇ。今から頑張ってもリカバリーはきくのかなぁ?」
「もちろんだよ。何かを学ぶ時は、成人した後も、三十歳や四十歳になっても大丈夫だよ。人は常に成長することができるからね。さーて、ウサミも、お弁当を食べようかな」
私は、水筒のふたを開けて、中身をふたに注いだ。茶色の冷たい液体が流れてくる。
弁当箱の布が固めにしばられていて、それを取るのに苦労していたら、私の水筒のふたが消えているのに気がついた。
あれれ?
探したところ、水筒のふたはふみちゃんが、持っていた。
「ウサミちゃん、喉乾いちゃったぁ。お茶、一杯だけちょうだーぃ」
ごくり。
「あっ! ふみちゃん、それお茶と、違うよー」
私の説明が遅く、ふみの顔色が一気に青ざめていき、ぶーっと吐き出した。
「ウサミの、今日のお昼は素麺なんだよ。これ、お茶じゃなくてつけ汁だから」
「何てものを飲ませるのぉ。騙すなんてひどいょ、宇佐美ちゃん!」
ふみちゃんが、涙目で抗議してきた。
「えー、ウサミ、あげるだなんて一言もいってないよ」
「確かにそうだけど、お弁当が素麺で水筒につけ汁が入っているなんてぇ、予想もできなかったょ」
たしかに素麺の弁当は珍しいかもしれない。昨晩、姉にどんなお弁当が食べたいか訊かれた時、私は素麺と答えたので素麺となったのだが。
箸を取り出して、素麺を持ち上げようとしたら、くっついていて全部持ち上った。
ありゃりゃりゃりゃ?
ふみちゃんが、ちらちらと見ながらいった。
「コンビニで売っている蕎麦とかには、麺をほぐす液体が同封しているよねぇ。くっついてるのなら、水道水でほぐせばいいんじゃないかなぁ。でも家庭のお弁当で素麺だなんて、あまり聞いたことないから、もしかしたら、もうのびてるんじゃないかなぁ」
「ふみちゃん、ナイスアイデア。ウサミ、水道水で洗ってくるね。のびてないことは、祈るのみだよ」
私は、弁当箱を持って立ち上がった。
「宇佐美ちゃん、グッドラック! あと、素麺を流さないように気をつけてねぇ」
「うん、気をつける」
水道水でくっついている麺を洗った。気をつけたが、素麺は流れてしまった。蛇口を開けようとするが、中々開かず、力いっぱい回したら、勢いよく水が出てきたのだ。
流水を浴びた素麺が流れていき、それらを拾って回収うしようとするも、蛇口を閉めておらず、素麺は流れるばかり。手でくい止めようとしても、手の端から素麺は流れていく。ゴミ箱となっているところで麺が止まるかと思いきや、なぜか運悪くそれが無かった。結果、半分以上が下水道に流れていき消滅。
トホホ。
肩を落として部屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます