第十一話 激戦、市街地戦!
「おいティッセ、私の指示も聞かずに……ああ、もう!」
「べネック団長、ホルダームさんは通行人に任せましょう。まずはあっちです」
「それもそうだな……皆さん、すみませんがこの人をよろしくお願いします!」
ホルダームの容態を見ていたべネック団長が、ダイマスの提案で声を張り上げる。
すぐに四人の男性がホルダームを運び始めたので、無事に教会に運ばれるだろう。
これで彼を巻き込む心配はなくなったな。
「おやおや……まあ、彼はどうでもいい。 それよりもあなたたちです」
「間違いなく皇帝の指示だよね。ハルック=モーズ第一騎士団長?」
ホルダームを心配そうに一瞥しながら、ダイマスが尋ねる。
ハルックは無言を貫いたが、それは何よりも雄弁に肯定の意を示してしまっていた。
「やっぱりね。しかし厄介だな。べネック団長の指示を……」
「魔剣生成、魔剣・一の型【
俺はダイマスの言葉を待つことなく、火の精霊を剣に宿らせて魔剣を作る。
「ほう、君が噂の魔剣士ですか。面白い。私も全力で相手いたしましょう」
「ありがとよっ!」
ハルックが体制を整える前に、急いで距離を詰める。
どれだけ油断していても、魔剣があっても、相手は一つの騎士団を統べる男だ。
時間をかければかけるほど、こちらが不利になる。
普通なら燃えるはずのない刃が、精霊が起こした炎で真っ赤に波打つ。
俺は駆けだした勢いのまま、間合いに入ると同時に剣を横に一閃。
何かを斬った感触が手に伝わってくる。
「イリナ、ダイマス、魔法だ! 魔法で援護してくれ!」
「分かった。精霊よ、僕の求めに応じて氷を突き刺せ、【アイス・カッター】」
「精霊よ、私の求めに応じて敵を吹き飛ばせ、【サイクロン・ミニ】!」
俺が後退すると同時に、イリナとダイマスの魔法が突き刺さる。
斬った感触は恐らくフェイク、あるいは鎧を傷つけただけに過ぎないだろう。
第一騎士団長が……そんなに簡単にやられるはずがない。
「水遁式剣術の弐、【激流斬】!」
俺の予想通り、ハルックは剣でイリナとダイマスの魔法を相殺した。
――二人分の魔法を、剣を一回振っただけで。
普通ならありえないが、ハルックの能力があれば可能だということか?
しかも、あれは剣技というもので、それぞれの属性の魔力を込めた剣だ。
精霊を剣に宿らせたものを“魔剣”と呼ぶのに対し、あれは“属性剣”と呼ぶ。
能力は魔剣に劣るものの、それぞれの属性が色濃く反映される。
「私の能力を見くびってもらっては困る。さあ、今度はお前たちの出番だ」
「おい、行くぞ!」
「ああ、我らは要らないと思うが……とりあえず団長をお助けしろ!」
ハルックが意地の悪い笑みを浮かべると、後ろに控えていた騎士たちが動く。
彼らも第一騎士団所属の騎士だろうから、相当なエリートだ。
何かしらの強力な能力を有しているとみて、間違いないだろう。
「精霊よ、私の求めに応じて闇の矢を降らせよ、【ダーク・アロ―・レイン】」
「無駄だ。我が隊には聞かぬ」
「――っ! べネック団長、闇の矢が何かに弾かれています!」
べネック団長が闇の矢を騎士たちに撃ちこむが……何かに弾かれている。
あれは【天空防御】!?
空からの攻撃を防ぐことができ、かなりのレア能力だと言われているのだ。
「くっ……あれでは攻撃がほぼ通らないではないか!」
「マズいですね。誰が能力持ちか分かりませんよ」
一般的には、能力を使っている者が意識を失うと、能力の効果も停止する。
だから【天空防御】の持ち主を倒せばいいのだが、それが分からない。
こうしている間にも、俺たちと騎士たちの距離はどんどんと縮まっていた。
「こっちに近づくな。精霊よ、僕の求めに応じて壁を作れ、【ランドウォール】」
「無駄だ。火炎式剣術の壱、【火炎斬】」
ダイマスが時間稼ぎで土の壁を出したが、すぐに火の剣技で破られてしまう。
もはや魔法での迎撃は困難。
今まで杖を持っていたイリナとダイマスが、腰から剣を抜いた。
「土石流剣術の壱、【土埃の舞】」
「風流剣術の壱、【つむじ風】」
ダイマスが一人目を袈裟斬りで撃破し、そのままの勢いで二人目を撃破する。
斬りつけられるたびに土埃が舞うから、敵はさぞかし大変だろう。
一方のイリナは風の剣技であることを利用し、襲い掛かってくる人数を調整。
確実に撃破していく。
そのまま十分ほど戦闘を続けるが、お互いに決め手がなく、かなり焦っていた。
相手は人数で押そうと試みるも、こちらの剣技を攻めあぐねている。
こちらも人数差があるため、下手に突っ込むと自殺行為になりかねない。
結果、泥沼の消耗戦になり果てていた。
「お前ら、そこで何をしているのだ!」
そんな泥沼の戦いを中断させたのは、一人の男性の声だった。
馬に乗っている男は市街地で行われている戦いを見るや否や、鋭い声を上げる。
そしてハルックを視界に入れた。
「お主は第一騎士団長のハルックだな? なぜ市街地で戦っておる」
「はっ、皇帝陛下の指示で罪人を連行しにきたのですが、抵抗されまして」
確かに嘘は言っていない。
しかし、ハルックの言葉は俺たちに悪印象を持つきっかけになったようだ。
男がこちらを睨みつけてくる。
「罪人だと? Sランク冒険者に宰相殿じゃないか。お前たちが抵抗を?」
「お久しぶりです。エーキンス王弟殿下」
ダイマスがその場に跪く。
俺、イリナ、べネック団長が目を大きく見開き、全員が素早く跪いた。
あれ、デールさんは?
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