第十二話 戦いは続く~べネック・デール.ver~

 エーキンス皇弟殿下は藍色の髪をオールバックにした、若々しい男性だった。

 しかしその目は鋭く、数々の修羅場をくぐってきたのだろうことが伺える。

 エーキンス皇弟殿下はハルックを怪訝そうな表情で見下ろした。


「ハルックよ、本当に彼らが罪人だというのか?」

「間違いありません。疑うのであれば、ここに勅命書もございますが」

「お主の言い分は分かった。だが、彼の説明ではお主に非があるそうだぞ?」


 そう言って、エーキンス皇弟殿下が示したのはデールさんだった。

 どうも戦闘中にいないと思ったら……随分と偉い人を連れてきたんだな。


「初めまして。私はヘルシミ王国に所属しているデールと申します」

「なっ……お前は誰だ!? 我が国で勝手なことを!」

「今回、ヘルシミ国王から“そちらの方々を護衛せよ”との命を受けて、ここに来ております。お疑いになるようでしたら、勅命書もございます。どうぞご確認ください」


 デールさんがポケットから一枚の紙を取りだし、エーキンス皇弟殿下に渡した。

 べネック団長にも見せた、あの勅命書か。


「うむ、間違いない。確かにそちらの四人の名前も書き記されている」

「そんな馬鹿な!? それではこの勅命書は何なのだ!」

「罪人の名が間違っていたのでは? いずれにせよ関係のないことです」


 デールさんは面倒だという気持ちを隠そうともしていない。

 ハルックが反論しようと口を開いたところで、エーキンス皇弟殿下が動く。


「ハルック、しばし待て。まずはデール殿の言い分を聞くとしよう」

「……皇弟殿下の仰せのままに」

「それでは説明させていただきます」


 ハルックは明らかに納得していなかったが、皇弟殿下に逆らえるはずもない。

 彼が押し黙ったのを見届けたデールが説明を開始する。


「事の発端は二週間前、リーデン帝国の建国祭です。私たちは国王陛下の護衛としてその建国祭に参加させていただいていましたが、その際にティッセ殿、ダイマス殿、イリナ殿の三人に声をかけました。というのも、魔物の討伐を主な業務としていた第三騎士団が団長の死で解散してしまい、このままではスタンピードが起こってもおかしくない場所もあるのです」


 スタンピードというのは魔物の氾濫のことで、数百の魔物が街に襲い掛かってくるという惨劇を引き起こすことで知られている。

 そうならないために冒険者が存在しているのだが……どうなっているのだろうか。


「お三方とも我が国の騎士団に入ることを承諾したため、私どもは一つの約束を取り付けました。それは次の式典が行われたら我々とともにヘルシミ王国に渡るというものです。言い換えれば、準備期間を設けたわけですね。そして建国祭の次に行われた式典……これが皆さんのご存じの通り、ドラゴン討伐記念パーティーです」


 一週間ほど前に行われたパーティーで、俺たちの転機になったパーティーだ。

 それにしても嘘が上手い。

 前半の部分は完全な創作だが、後半の部分は本当のことである。


「約束通り、ドラゴン討伐記念パーティーから帰るときに同行してもらい、国境を超えることを目標に旅を続けていたわけなのですが……この町に到着した直後、ホルダームなる男とそちらの男性に襲われましてね。慌てて領主様を呼びに走った次第です。ここら一帯を治めているのが、皇弟殿下だとは思っていませんでしたが」


 デールさんがそう言って、説明を締めくくる。

 すると待ってましたとばかりに、べネック団長が素早い動きで右手を挙げた。

 これからはべネック団長のターンだ。


「そなたはべネック=シーランという女騎士であろう。発言を許す」

「ありがとうございます。私がデールが外していた間の出来事をご説明いたします」


 そう言って頭を下げたべネック団長は、チラッとハルックを一瞥した。

 ハルックは憮然とした表情を崩さない。


「先ほど出てきたホルダームなる男はイリナ殿のお父上だったらしく、少々の小競り合いの末に和解なされました。しかしそちらの男性が背後に二十人ばかりの騎士を侍らせ、目的は分かりませんが、ホルダーム候の背に剣を突き刺したのです」


 明言はしないが、ホルダームを殺そうとしていたのは間違いないだろう。

 エーキンス皇弟殿下もこちらの意図を理解したのか、ハルックを見る視線が険しくなった。


「私たちとしては、仲間の親族を害されたということになります。また、そちらの男性がティッセ殿とダイマス殿を連れ去ろうとしていたので、遺憾ながら反抗させていただいた次第です」


 べネック団長がそう言って、説明中は上げていた視線をゆっくりと下げた。

 するとエーキンス皇弟殿下が俺たちに視線を向ける。

 皇帝のそれよりも鋭い視線に射貫かれ、自然と背が真っすぐになった。


「お前たち、今の説明に間違いはないか?」

「はい、間違いありません」


 俺が答えると、イリナとダイマスも首を縦に振った。

 すると今まで黙っていたハルックが、血走った眼を大きく見開きながら口を開く。


「貴様ら……二週間も前から隣国に通じていたとは! 万死に値する!」

「待たせたな。それではハルック側の言い分を聞くとしよう」


 険しい表情をしたエーキンス皇弟殿下が低い声で呟いた。

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