対魔王軍幹部作戦会議、勇気の出し方
「それで、なぜアリアさんはここに?」
ひとまず別の部屋へと移動し、俺とアリアさんは2人っきりで秘密の密会をしていた。
何もドキドキはしない……いや、いつ不敬罪とかで首を斬られるかもしれないと言う不安感からビクビクはしていたが。
「あなたを不敬罪で殺すためです。……その手に持っている椅子を投げたところで、殺人未遂罪が付け足されるだけですが……」
あ、未遂って断言してますよこの人。俺は反射的に手に持った椅子を下ろす。別にビビってこの場から逃走しようとしたわけじゃないからな!
「まぁさっきの冗談はともかく」
やっぱり未遂でも良いから椅子を投げよう!
「本当の目的は王様からの命令で、エミーリオお嬢様のお迎えですね。着いた当初は慌てましたよ。何せ、エミーリオお嬢様が行方不明なんですから。兵士たちが大慌てで探してましたよ」
「え? そんなわちゃわちゃしてましたか?」
さすがにそんな騒ぎがあったなら、俺やエミーリオが起きると思うんだが……。
「モブさんの安眠を邪魔しないように、この周りはできるだけ静かに、素早く終わらせたそうですので。まさか、勇者様がロリコンだとは騎士長や兵士たちも思わなかったようですが……」
「だからロリコンじゃないですって!!! どっちかといえば俺は胸がでかい方が……なんでもありません」
アリアさんが俺の目を潰そうとしてきたので俺は誤魔化す。
まさか今の発言だけで俺がアリアさんの胸を見ていると勘違いされるとは……。いや、思いっきりガン見してましたけどね。
あのおっぱいを拝めるだけで、今日も1日頑張れそうだな……って俺今日死ぬじゃん!? ……ってこのやりとりさっきもしたよ!!!
「それでです。ここに来て、優先順位がはっきりと変動しました。……なぜあなたと! 魔王軍幹部であるミノスが! 一対一で決闘をすることになっているのですか!?!?!?」
ですよねぇぇぇぇぇっっっ!!!!! そこ突っ込みますよねぇぇぇぇぇっっっ!!!!!
……さてさて、どう言い訳をしようか……。
「実は……奴は俺と決闘をしなければ、国の兵士たちを皆殺しにすると脅されました。ですのでーー」
「嘘ですよね?」
「はいそうですすみませんでした。戦場のど真ん中に現れて殺されそうだったんで虚勢張って勇者ブシで喋ってたら決闘を申し込まれましたあとはもう勇者ブシで売り言葉に買い言葉でとんとん拍子ですアリアさん助けてくださいよお願いしますぅぅぅぅぅ!!!」
俺はすぐにアリアさんに嘘を見抜かれたので頭を下げと謝る。でも、今嘘をついたとこ以外は本当だから許してぇぇぇ!!!
「全くあなたは……! はぁ……。武器や武具があるのは幸いですね」
逃げようとしてた事は決闘のことで頭がいっぱいなのか気付かれてない。よっしゃ!!!!
「今から戦闘の技術を得たところでほとんど意味も為しませんし……。勇者がいないとバレれば私たちは終わりです。それを補うために私たちがいると言うのに、あなたはなぜ決闘を選んでしまったのですか!」
急にアリアさんに胸ぐらを掴まれてガクンガクンと揺らされる。
「いや向こうが勝手に言い出したんですよ! それ以前に煽るような言い方してたんで断るのも不自然かな〜って。……それに今生きている兵士たちの中には、あの場で血を流していたかもしれない人もいるんです。結果的は1日だけですが寿命を延ばせて良かったんじゃないかなって……」
アリアさんの手がピタリと止まる。俺の目をじっと凝視し、口は少し半開きになっていた。
普通ならこんなに見つめられると照れるが、アリアさん相手では恐怖しか出てこない。
「驚きました。最後の言葉は嘘ではないようですね。…………もう良いです。過ぎた事をいつまでも言うべき時ではありませんからね」
アリアさんにポイッと放り捨てられた。酷いよ!
「それよりもアリアさん、俺に考えがあります」
「へぇ、一応聞きましょう」
「俺との決闘の審判をアリアさんがします。開始した瞬間、ミノスは俺を狙うと思うので、その隙をアリアさんが突くんです! ……痛いっ! なんで叩くんですかっ!?」
「あなたに騎士としての誇りはないのですか!?」
「ない(断言)!!!!!」
「もういっそ死んでください。と言うか私、まだ戦えませんよ。原因不明の体調不良のせいで、2、3日絶対安静との事です」
それ俺のせいです、ごめんなさい!!! じゃあ他の誰か助けてぇぇぇっ!!! だって俺弱いもん!!!
「第一、あなたが一対一で勝たなければいけないのです。これはもう詰んでいると同義ですね」
「もうどうしましょうか……」
アリアさんの残酷な一言(ただの事実)に俺は心が諦めモードに入る。しかし、それを(無理やり)引き立たせる人物がいた。
「お兄ちゃん、どうしたんでしゅ……で、ですか?」
「いや、なんでもないぞ」
今部屋に入ってきたエミーリオだ。まださっき起きたばかりなのだろう。
アリアさんには気づかず、あまり頭も呂律も回っていない。だが恥ずかしさだけはあったようだ。
そしてアリアさんはエミーリオの『お兄ちゃん』呼びに即座に気付いて俺にさっきを飛ばしてくる。え、あれも俺のせいなの!?
「お兄ちゃん、顔が暗いけどどうかしたの?」
エミーリオが俺のそばまでやってきて、キョトンとしながら上目遣いでこちらを見てくる。
お兄ちゃん呼び+上目遣いという、『ぼくのかんがえたさいきょうコンボ』みたいなのを繰り出してきた。
何この子、将来は天然魔性の女になりそうだな。いや、とてつもなく庇護欲を唆られるから、裏ファンクラブとか作られてアイドルになってそうだ。
しかも本人は気付いてない状態で。おっと、変な妄想をしてしまった。
「なんでもない。気にするな」
俺はとっさに誤魔化すためにエミーリオの頭を撫でて追い払おうとする。
「やだよっ、お兄ちゃん何かあったんでしょ? そのせいで魔王軍の幹部と戦う時に負ける可能性があるんでしょ?」
いや、そんなものは無い。それに合ったとしても、魔王軍幹部と戦っても、負ける可能性しかないし。
だが、ここで引き下がればエミーリオを悲しませてしまう。
「そうだな。……ちょっと魔王軍幹部と戦うには勇気がいる。だが、俺にはそれが足りないらしい。だからエミーリオ、俺を勇気をくれないか? お前だけ特別に許可してやろう」
……うん、今の俺にはこうやって場を収めるしか考えがつかなかった。もう少し思案したら良い案も出たかもしれない。
この作戦は俺が死んだ瞬間にエミーリオの深い傷となるだろう。無論俺が殺されれば、結局今日死ぬ可能性
は高い。
でも、たとえそうだとしても、俺はできる限り悲しませはしない。これはそう、誓いみたいなものかな?
こうするぞ、ってエミーリオに宣言しておくことで覚悟を決めるようなもの。
「……うんっ、えっとね〜……お兄ちゃん頑張ってね。よしよしっ」
「…………」
何故か俺はエミーリオに頭を撫でられていた。たしかに俺はエミーリオの顔を見ながら喋っていたので下を向いて、少しばかりしゃがんでいたが……。
よくみるとエミーリオは背伸びをしながら「うんしょっ、よいしょ」と小声で呟いていた。
俺はそれだけで元気がでた。もちろん下半身の話ではない。心の話だ。
「ふむ。エミーリオ、もう十分だ」
「本当ですかっ? 私のおかげで勝てるんですかっ!?」
エミーリオはこんな事でと言った表情で俺に尋ねてくる。
「ふっ、俺は全力を尽くそう」
勝てるとは言わない。でも、今はエミーリオのおかげで一番やる気の出ている時だろう。せいぜい長生きしてやるさ。
まっていろよミノス、今日の俺は一味違うぞ!!!
その後、エミーリオは城に帰った。駄々をこねたが、必ず勝利を持って帰ると約束したら大人しく帰った。
……さてさて、せいぜい有言実行を頑張りますかね。
「はっきり言いましょう。モブさんの実力では武器や武具を付けたところで瞬殺です。それでもやるのですか?」
アリアさんが俺のやる気をすごい削いでくる言葉を掛けてきた。いや分かっているよ。これが心配の裏返し、ツンデレだと言うこーー。
「やっぱり今すぐ決闘を始めに行きましょう」
「それいますぐ死ねって俺に言ってるよね!?」
そんな軽口を言い合っているうちに、決闘の時間がすぐそこまで迫って……迫って……。
あれ? 決闘って今日のいつやるんだろう? だっていつやるかミノスに聞いてないぞ?
そう考えた瞬間、兵士の1人が大慌てでテントに飛び込んできた。
「魔王軍幹部のミノスが『決闘を始めるぞ。いますぐ出てこい』との事です」
やっべ、やっぱ今までの宣言全部取り消したいわ、と俺は思った。
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