王女(幼女)と過ごす決戦前夜
「…………もう、いっそ自殺しようかな?」
俺は明日行われる魔王軍幹部との決闘を前に、ベッドで仰向けになりながらそう呟いた。
まぁ、口だけでそんな勇気ないんだけどね!!!
まず、それだとギリギリのギリまで生きれる決闘をした方が良いじゃないか!よし、決闘をしよう!!!
……ってその決闘のせいでこうなってるんじゃないか!!!
何か今の俺にできること……無い(断言)!!!
「勇者様、テントに入ってもよろしいでしょうか?」
なんか聞き覚えのある女の子の声が聞こえる。勇者様と呼んでいることから、俺が偽物であることは知っていない。
つまりは打開策を思いつけるわけがない。……よし、最後ぐらい1人でいたいから無理と言おーー。
「お願いです、入れてください。……お兄ちゃん」
「許可する」
……!?!?!? え、俺に妹いたっけ? いや、いない……はずだが……え、俺に妹いたの!?
なにそれ、『お兄ちゃん』なんて呼んでくれる妹とか、それだけで国宝級じゃん!!!
顔もわからない妹よ。ヘイヘイカモンカモン!!!
「失礼します勇者様」
そう言って入ってきた俺の妹。そして現れる小さな顔。セミロング、肩あたりまで伸ばした青空のような綺麗な水色の髪。
140センチほどと俺よりも30センチほど小柄な身長。華奢な体つき、精一杯おめかしをしたと思われるプルプルの肌。
そしてひっそりと立ち昇る蒸気からは、彼女がお風呂上がりだという想像は固くない。
着ている服はピンク色のパジャマだった。とても似合っていてかわいい。
…………ってそうじゃなくて!!! なんで! ここに! この国お姫様! 王女殿下! の! エミーリオ(様)が!?
エミーリオは部屋に入り、即座にベッドに座った。足は床に下ろしており、上半身だけを両手を後ろにつき、体を立たせている状態だ。
服装は俺も同様にパジャマ姿だ。ちなみに、俺は明日の決闘を考えていたら冷や汗が出てきたので、じめっとした服を着るのが好きではなく、前のボタンを全開にして涼んでいた。
「……なにをボーッとしている?」
「……え? あっ……。そ、その……そのお姿が……」
あ、そうだそうだ。こんな格好をエミーリオに見せたとあっては、王様に殺されそうだ。教育上なんとかかんとか、と言われるだろう。
実際、エミーリオも顔を赤くしている。お風呂上がりなのもあるだろうが、男性の上半身裸姿を見るのが恥ずかしいんだろう。
年齢的に思春期だし……。あ、それは俺もか。
「あぁ、すまないなエミーリオ。すぐに閉じる」
俺はそう言ってボタンを止めていく。ボタンを止め終わり、改めてエミーリオを見ると、顔が少し不満そうになっていた。
……あ、ボタンを止めるのが遅すぎたのか? この服高級品だし、微かに手先が震えていたのだが、明かりもつけてないから見えてないと油断してた!!!
窓から差し込む月明かりだけでそれがわかるとは……。この子、俺より強いんじゃ?
「「…………」」
沈黙がこの場を支配する。エミーリオは自分から会いにきたのになかなか用件を言わない。
何か言いにくいことなのか? ……仕方がない。とりあえず俺から何か話すか。
「……また会ったな、エミーリオ。案外早かったが」
「っ! ……覚えてて、下さったんですね……!」
「当然だろ」
王女との約束を忘れれば何されるか分かったもんじゃない。前回の王様に謁見をした後、エミーリオと少しばかり話し込んで、再開の約束をしていたからな。
今話せる話題、これしか思いつかなかった。早く何か話題を振ってくれ。
出来れば俺の最後の時間を奪った理由をだ。
……もしや夜食でもあるのか? 俺の最後の晩餐が『勇者様がここにいらっしゃるのが早すぎたので、こんなものしか……』と騎士長たちの同じ食事になってしまったからな。
森を抜けたら王城から近いんだから、1人分ぐらい持ってきてくれてもいいのに……。
俺も『構わない』と建前上はそう言ったが、さすがに最後の晩餐が乾パンと干し肉は寂しいよな。
「それで、何か用件でもあるのか?」
「はうっ! ……そ、その……」
エミーリオば両手を年相応の薄い胸の前でクネクネと、指を絡めたりしながらもじもじとしている。
なんだ? 夜食のメニューぐらい勿体ぶらずに教えてくれよ。……もしかして高級食材か!? ……いや待てよ。
用意をしたのが王様なら、嫌がらせでそんな物を送ってくるわけがない。言い出しにくいレベルの何かが夜食なんだ!!!
「その……。い、一緒に……」
なんだ、一緒に夜食を食べようとかか?
「ふっ、それぐらい別に構わないぞ」
わざわざ俺1人だけに用意しているわけないだろう。エミーリオの分ぐらいあるだろうしな。
無いなら俺の分を分ければ…………分け、れば……良いだけだ(断腸の思い)!!!!!
「ほ、本当ですか? 本当に、良いですか?」
エミーリオがこの暗闇の中でも分かるほどに目をキラキラと輝かせる。
まぁ、勢い余って俺の顔との距離が30センチほどまで近づいているのもあるだろう。
そんなに夜食を食べたいのか。エミーリオも女の子だが、今は成長期だしこれくらいは良いだろう。
「あぁ。何度も聞くな。恥ずかしいだろう(女の子なのに食い意地が張るなんて思われるのが)?」
「え? ……勇者様は、私を意識してくださるの、ですか?」
俺が気遣いの言葉を言うと、エミーリオは驚いた風に問いかけてきた。
意識……? そりゃあ、お姫様と夜食を食べるのに意識しない奴はいないでしょう。
「あぁ、そうだが」
俺は至極当然の回答をしたのだが、エミーリオにギュッと抱きしめられた。驚いたが、エミーリオが離してくれない。
無理に解いたら不敬罪にされると困るぞ!? ……もしかしてエミーリオ、夜食食べるの初めてかっ!? だからこんなに嬉しいと表明している!?
「嬉しいです勇者様」
やっぱりそうか!!! 確かにお姫様が夜食食べるなんて知れたらどうなるかわかんないもんな!
どうでも良い事を無駄に騒ぎ立てる連中とかに知れたら面倒くさいし。
「私と一緒に寝てくださるなんて!」
「あぁ、一緒に夜食を食べ…………なんて?」
「お父様には黙ってきてしまいましたけど、勇者様も構わないなんてありがとうございます! そ、それに私を意識してくださっていたなんて……!」
あ、これやばいやつだ。多分いろいろ勘違いが起きてた。夜食だと思ってたのに、実は添い寝のお願いだったなんて……。
え、じゃあ俺の最後の晩餐あれで終了!?!?!? ……ってそれよりも、俺今からエミーリオと寝るの!?!?!?
見つかったらロリコン認定されちゃうやつだ!!! ロリティーブに改名しろとか言われるやつだ!!!
「まてエミーリオ。お互い誤解があったようだ。もう一度話をーー」
「お兄ちゃん、一緒に寝て良い?」
「構わん」
俺の馬鹿野郎がぁぁぁぁぁっっっ!!!!! だって、だってぇ! エミーリオに「お兄ちゃん」なんて言われてつい条件反射しちゃったんだよぉぉぉっ!!!!!
***
「ーーてください。……おい起きろ。……起きろこのブタがっ!」
「あでっ……。いったた〜、いきなりなん…………スピ〜」
パチン!
「いだいっ! 親父にも打たれたことないのに!」
ベッドから無理やり引きずり出され、罵倒されながら目を開けるとそこにはアリアさんがいた。
当然、俺は二度寝を決意する。しかしアリアさんは俺の頬をビンタしてきたので、俺は故郷に伝わる一度は言ったみたいなセリフランキングに入っているセリフを言いながら抗議する。……余は満足じゃ。
……待て! とっさの事で口調がいつも通りだ! エミーリオに見つかった場合……!
俺はとっさに周りを見渡すが、エミーリオはすやすやと寝ていた。……ふぅ、この寝顔だけで今日も1日頑張れそうだ……って俺今日死ぬじゃねぇか!!!
「よく私の目の前で、エミーリオお嬢様の事をゲスい目でニヤニヤしながら見れますね。状況わかってますか?」
「……見たことは認めるけど、ニヤニヤはしてーー」
「してましたよ。ロリティーブさん」
うわぁぁぁぁぁぁん!!! やっぱりロリコン認定されたぁぁぁぁっっっ!!!
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