王都到着から始まるモブのモテ期?
「でっけぇぇぇ! なんだあの建物! あれが王城かっ!?」
「あれは『癒しの天使亭』と言う名の王国随一の宿屋です。と言うか恥ずかしいので喋らないで付いてきてくれますか?」
俺は王都の中にある城下町をゆっくりとしたスピードの馬車で、王城へと向かっていた。
見るもの全てが俺にとっては初めてだ。王都には兵士として一度来たことはあるが、その時は景色を見る心の余裕も時間も無かった。
何故か? 確かに初の王都へたどり着いたことへの期待感もあるだろう。
だが、前回はそんなちっぽけな思いで見れなかったわけじゃ無い。
前回も馬車に乗せられて来た事は来たのだ。たがその時は他の村の人達で多すぎて、俺は真ん中あたりでぎゅうぎゅうに潰されていたので、周りを見る余裕など無かった。
あれはもう、強制連行だと言っても過言では無い。
それにしてもいろいろな店があるな。お、あっちでなんかのお肉の串焼きがある!
あっちは……お芋を油で揚げてるものが! くそぉ! 勇者の代役なんて受けなかったら食べれたはず! ……いや、まずここにも来れないか。
そうこうしている間にも、俺たちは王都の中心部にある王城の前に着いていた。
「……アリアさんアリアさん。王城がこんなにも凝っているなら、少しくらい戦線の底上げに使おうとか思わないんですか?」
「思わないな。この国が未だ現在も余裕だぞ、と魔族や他の国に見せつけるために必要なんだそうだ」
それってつまり、ただの王家が見栄を張りたいだけなんじゃ……?
本当に魔王軍と戦う気あるのかこの国? こんなんだから勇者に逃げられたんじゃ?
俺とアリアさんは馬車に乗りながら城門をくぐり抜けた。
窓から城内の景色を見ようとしたのだ。だが、その様子は酷かった。
かつてはさぞ綺麗だっただろう花の庭園は、茶色く枯れはて、庭師の手入れどころか水すら与えらていない花々。そして所々ヒビの入った外壁。
なるほど、これが今の現状か。表面上は綺麗で大丈夫みたいだが、これを見るとアリアさんの言ったさっきの言葉もわかるような気が……する……のか?
馬車を降り、俺とアリアさんは王城の内部へと入っていく。
王城の入り口と王城内への入り口には、先ほども居たが見張りの兵士たちが居る。
彼らは俺が本当の勇者であり、修行を終えて帰ってきたと思っているらしい。
当然俺はそれを見越した上での対応をしなければならないが……面倒臭い……。
けどアリアさんが隣からすごい目で睨んでくるので、当然キチンと対応はする。
「これはアリア様に……それに勇者様っ! 修行を終えて戻ってきたのですね!」
「その通りだ凡愚。この俺様の歩みを妨げる、この忌々しい封印されし扉を
……本当にこれで合ってるんだよなっっっ!!! 嘘だったらアリアさんを、刺し違えてでも殺すっっっ!!!
はっずぅぅぅぅぅぅぅぅ!!! ……おい、見張りの兵士たちが目を丸くして俺を汚物でも見るような目で見ているんだが? これはどう言うことかなアリアさん。
「あははは、アリア様、勇者様は相変わらずのようですね」
「あぁ、これでも一応勇者ですが」
……え? あれで合ってんの? 勇者は勇者でも、あんな喋り方を異世界で素で出来るって……違う意味で勇者なんじゃ?
しかもあれを受け流せる兵士さんも兵士さんだよ。この国終わってんだろ。
……マジでもうすぐ終わるかもしれないけど。
***
俺たちは王城の中を歩く。途中、執事やメイドと出会うたびに頭を下げられた。
王城内はシーンとしていて、あまり音はしない。故に、アリアさんの甲冑の音は少しばかり響いていた。
しばらく歩いていると、アリアさんが足を止めた。向こうから歩いてくる人が知り合いなのだろう。失礼だが、まるでオークのような体の大きさ。
服を着た上からでも分かる凄まじい筋肉で、特に胸筋が凄まじい。
2メートル前後はある高身長に、凄まじい美形の顔。男の憧れを詰め込んだ男性で、顔と体が少し合っていない。
だが、髪は長く伸びており、まるで女性のようだ。
「あらぁ〜、アリアちゃんじゃな〜い。それじゃあそっちの子は勇者……の代役の村人ね?」
な、なぜバレた! これはまずいんじゃ……。あれ? 男性……? 見た目は男で、性格はオカマっぽい。
「あぁ。こいつはモルティーブ。略してモブだ。例の村から連れてきた。モブ、こいつはヘルティス。『
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
これが女? メスのオークの間違いだろ?
「あらやだ、嘘じゃないわよ?」
いつの間にかヘルティスが隣にいた。近くで見るその顔と態度と体のギャップで俺は気絶した。
***
「……はっ! ここはっ! あの
眼が覚めると、俺はいつの間にかどこかの部屋のベッドで寝ていた。
アリアさんあたりが運んでくれたのだろう。
「いやそれよりも、それよりもあの
「お・は・よ・う❤︎」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!」
ベッドの隣から声が聞こえたのでそちらの方向を見ると、添い寝をしたご様子で顔を少し赤らめた
俺は パタリと倒れ、再び気絶したのだった。
***
その後俺が再び目覚めるとアリアさんがいた。俺はこんなにも心から頼もしく思った女性を見たことがなかった。
そら勇者も逃げ出したくなりますって。
コンコン!
「どうぞ」
部屋の扉をノックする音が聞こえたので、俺はそう言って許可を出した。
入ってきたのは水色の髪をセミロングまで伸ばした少女だ。
……身長は140センチと小柄だ。体の凹凸も余り無いので、おそらくは12歳ぐらいだろうか?
「し、失礼しましゅ!」
……噛んだ。少女は顔を赤くしながら、痛いのを我慢して涙目になりながらもこちらを見て近づいてくる。
さっきの出来事は無かった事にして欲しいらしい。アリアさんにも一応目配せをする。
アリアさんも『理解した』と言わんばかりに頷く。良かった。理解してくれたらしい。
「さきほど舌を噛みましたが大丈夫ですか?」
ちがぁぁぁぁうっ!!! そうじゃなぁぁぁいっ!!! 俺の目配せは『この少女の事を心配しないと』じゃないよ!
ほら! この娘も顔を赤くなっているのを隠すため、下を向いちゃってるよ? どうすんの? これどうすんの?
「勇者様。わたくしの名はエミーリオ・ボトム・グラシェルティーナと申します。玉座にて、陛下がお待ちしておりましゅ……おります。お迎えにあがりました」
……三度寝したい。
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